タクミシネマ     理想の彼氏

理想の彼氏
バート・フレインドリッチ監督

 サンディ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、夫と2人の子供をもつ40歳の主婦だった。
ある日、夫の浮気を発見し、ただちに離婚した。
子供たちを引き連れて、速攻でニューヨークのアパートへ引っ越してくる。
スポーツ番組の製作会社への就職も決定し、都会での生活が始まった。

Catherine Zeta-Jones and Justin Bartha at event of The Rebound
IMDBから

 ニューヨークでは子供を学校まで、誰かが送り迎えしなければならない。
サンディはフルタイム・ワーカーである。
2人の子供の面倒はみることができない。
ナニーが必要になる。
アパート1階のコーヒーショップで働く、アラム(ジャスティン・パーサ)に白羽の矢を立てる。
彼は大学こそ卒業したが、無職のフリーターだった。
男性がナニーをやるのはいい。
何とサンディとできてしまうのだ。
 
 サンディの廻りでは、24歳の若造などと、評判が悪い。
しかし、彼女と彼は熱々になった。
2人がこのまま結ばれてしまえば、年下の男をものにした、幸運な中年女性の恋愛映画で終わる。
事実、中年女性が年下の男性を誘惑する映画は、最近とても多い。
あなたは私の婿になる」「愛を読むひと」「あるスキャンダルの覚え書き」「ルィーズに訪れた恋は…」とたちまち数えられる。

 女性が年上、男性が年下というカップルを、素材に使っているが、大きな年齢差の恋愛を主題にしているのではない。
年上女性が、若い男性を食べてしまう「ルィーズに訪れた恋は…」は、2004年に撮られているし、もうこの主題は手垢が付いてしまっている。
今回は、サンディに子供がいたが、子供を可愛がる男性の映画も、「幸せのちから」「ビッグ ダディ」などこれまたたくさんある。

 この映画の主題は、最後に明かされるアラムの親子関係である。
サンディとアラムの関係は、一度は破綻する。
その後、アラムは5年間ばかり、世界各地を放浪してくる。
その途中で、彼は小さな男の子を養子にして、親子関係になって帰国している。
彼は結婚もしたことがないのに、すでに父親になったのだ。

 子連れの中年女性と、子連れの若い男性の結婚が、この映画の主題なのだ。
サンディのほうは血縁の子供だから、特別に新しくはない。
アラムのほうが問題なのだ。
アラムの子供は、旅行中に途上国で出会った子供に過ぎない。
そんな子供をアメリカまで連れてきて、親子関係を結んで自分の養子にした。
しかも、アラムの両親たちも、この子供を溺愛しているのだ。
 
 独身のままで親になれる。
しかも、養子と実子を同じに扱う。
男性ゲイのカップルが、養子をとる話はよく聞く。
しかし、この映画は、カップリング=結婚と子供が別の話になったことを描いているのだ。
いままでは結婚してから、子供の誕生だった。
できちゃった婚であっても、結婚と子供はつながっている。
この映画は、両者をまったく無関係とみている。

 アメリカ映画は、家族理念の拡大を続けている。
この映画は、中年女性と若い男性の恋愛をかりて、新たな家族の形があり得ることを描いているのだ。
そして、途上国からの子供の縁組みを、血縁の親子関係と同じように扱おうとしている。
ここが新しいのだ。

 映画の主題としては納得するが、キャスティングと人間関係の設定に失敗したがゆえに、失敗映画である。
アランが子供を紹介シーンでは、母親はいないことが簡単に予測されてしまった。
もっと言えば、2人の関係が破綻した段階で、もう結末が見えてしまっていた。
筋がバレるようでは、上手い展開とは言えない。


 それに何といっても、サンディを演じたキャサリン・ゼタ=ジョーンズが、高齢に過ぎるのだ。
彼女の公式の生年月日は、1969年9月25日ということになっているが、どう見ても50歳を越えている。
本当の年齢は、55歳くらいだろう。
ゼタ=ジョーンズの容色が衰えたとはいえ、彼女の雰囲気が、アラムとのラブシーン向きではないのだ。

  アラムを演じるジャスティン・パーサのほうは1978年生まれとあるから、31歳でまだまだ瑞々しい肌をしている。
高齢男性と若い女性という組み合わせを、異常に感じないのに対して、反対の組み合わせを異常に感じるのは、偏見だと言われそうである。

 高齢男性と若い女性の場合は、男性がリードするのに対して、この映画では男女を等価に置こうとしている。
もちろん、最初はサンディが雇用者で、アラムは雇われたナニーである。
両者のあいだには、圧倒的な立場の違いがある。
ベッドシーンへの主導権もサンディにもたせている。
このあたりは不自然ではないのだ。

 最後にアラムを父親にさせて、両者を再会させたように、初めから横並び感覚が前提になっているのが明らかになる。
この感覚が映画を貫いているので、何となく座りが悪いのだ。
若い男性を、そのまま中年女性のペットにしてしまえば、不自然ではない。
無理やり平等にしようとしているので、不自然に感じるのだ。

 「愛を読むひと」では、33歳のケイト・ウィンスレットが、15歳の男の子を抱いてしまうが、まったく不自然ではない。
あのまま結婚しても、不自然さはなかった。
だから、たんに年齢差の問題ではなく、キャスティングの問題であり、演出の問題である。

 ゼタ=ジョーンズは「幸せのレシピ」でも恋人役を演じていたが、あの映画でもラブシーンにちょっと不自然な感じがした。
ひょっとすると彼女は、恋愛シーンが演じられないのかも知れない。
彼女は美人だったが、なぜか精神性を感じさせないのだ。
それにしても、「理想の彼氏」という邦題は、ちょっとズレているのではないだろうか。

 中年女性には若い男性が理想というのは、とてもよく判る。
アルマのように子供好きで、家事もばっちりというのであれば、若い男性のほうがベッドでもタフだろうし、若い男性が良いに決まっている。
だから、理想の彼氏が、若い男性だというのは理解する。
しかし、この映画の内容からすると、この邦題は違うだろう。


 蛇足ながら、この監督自身も、ジュリアン・ムーアとのあいだに2人の子供がいる。
しかも、ジュリアン・ムーアのほうが10歳も年上である。
原題は「The Rebound」   2009年のアメリカ映画


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