タクミシネマ       幸せのちから

 幸せのちから     ガブリエレ・ムッチーノ監督

 あまりに不愉快な感覚が残り、この晩は魘されそうだった。
医療機器のセールスマンが、頑張って億万長者になる話で、
スーパー頑張れば金持ちになれるという、体制側の宣伝映画である。
この映画が、実話に基づいているだけに、不愉快な感覚が残る。

imdbから

 クリス(ウィル・スミス)は、医療器械が売れない。奥さんにも逃げられて、貧乏のどん底。
家賃は払えない。
駐車違反の反則金が払えずに、留置場にやっかいになる始末。
彼の生きがいは、息子のクリストファー(ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス)だった。
証券会社への再就職を決意するが、正式採用まで6か月間の無給の研修が待っていた。
しかも、研修が終わっても、採用される保証はない。


 とにかく頑張って、頑張って、彼は20人の研修生の中から、たった1人採用される。
その苦闘の日々を描いた映画だが、失業者の群れが街に溢れるなかで、
採用された彼は裕福になっていく。
頑張れば裕福になれるという、ほとんど不可能な厳しいメッセージを、観客に伝える映画である。
あたかも失業者は、本人の努力が足りないと言っているようだ。

 たまたま彼は、数学的な才能があったし、本人の努力もあったが、幸運も味方した。
にもかかわらず、努力せよ、さすれば報われる、という映画で、
こんな主題が今頃蒸し返されるのは信じられない。
もちろん成功のためには、努力が必要だろう。
しかし、この映画の主人公のような努力を、万人に要求するのは異常である。

 この映画で見ても、確かにアメリカの社会は、我が国に比べると開かれている。
クリスが電話をいれると、10分か15分だけだが、紹介状もなしに会ってくれるvipがいる。
それは大学の教授たちが、知らない学生からの質問にも、気が向けば答えるのと同様だろう。
我が国の教授たちは、メール・アドレスを公開していないが、
非公開のメール・アドレスとは何のためのインターネットだと思えてくる。

 しかし、彼の頑張りは、やはり異常である。
普通の努力で、健全な生活ができる社会をつくらなければならない。
ほとんど不可能な成功話を、誰にでも可能なように描くのは、無責任の極みだし、
とても真っ当な表現者だとは思えない。
原題は「The pursuit of happyness」 
 2006年アメリカ映画
   (2007.2.14)

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