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何度もフィクションだという文字が入るが、CIAの工作員を主人公にした、実話だと思えてくる。 複雑な展開で、中盤になっても、どのように物語が進むのか、皆目見当がつかない。 細かいエピソードを、少ないセリフで、たんたんと積み重ねていく。 それが終盤になるに従って、すべての伏線が立ち上がって、みごとに物語を結末へと導く。
舞台は中近東だが、アメリカ国内の各地、スイスやパキスタンなどなど、カメラは世界各地を移動する。 その上、登場人物も多い。 アラブの歪な貧しさがよく判り、テロへの道筋も上手く描かれている。 アメリカの石油需要よって、世界中が振りまわされる。 この映画は、石油戦略をめぐる中近東情勢に対する、ハリウッドの良心といったところだろうか。 CIA工作員のボブ(ジョージ・クルーニー)は、長年アラブでの諜報活動にかかわってきた。 彼はアメリカの利益のために働いてきたつもりで、その間、人を殺したこともあった。 現場が長かった彼には、CIA本部にはコネがなかった。 彼は王位継承者であるシナール王子(アレクサンダー・シディグ)の、暗殺指令を受ける。 長男のシナール王子は、近代主義者の正義派である。 彼は国民が貧しいのは石油の利権が、充分に活用されていないからだと考えている。 エネルギー・アナリストのブライアン(マット・デイモン)をつかって、中国に接近するなど中立的な政策を採ろうとした。 シナール王子は、テキサスのコネックス社との、天然ガスの契約を破棄し、中国へとむけようとする。 アメリカは彼の中立的な政策を歓迎しない。 同じテキサスのキリーン社は、同じ頃カザフスタンの権利を入手する。 そして、両者は合併しようとするが、その裏には非合法な取引があった。 しかし、アメリカの石油戦略からは、それを黙認する必要があった。 映画は、コネックス社とキリーン社の合併、 合併をめぐる石油会社と司法省との抗争、 王国の後継者争いとアメリカ人フィクサーとの絡み、 王国への暗殺指令とciaの関係、 王国での外国人労働者の日常とテロへの繋がり、 シナール王子へのエネルギー・アナリストの食い込み、 エネルギー・アナリストの息子の死と家族関係などなど、 膨大な場面をボブの存在をとおして、辛うじて一つにして見せている。 物語が複雑でありながら、その展開は実に密実で、とても説得力がある。 次順位の皇位継承者だが、彼ならアメリカとの利権に飛びつくと考えたフィクサーは、 政府やCIAなどに手を回して、王位継承に介入する。 そして結局、CIAがシナールを暗殺して、アメリカが利権を手にする。 御用済みとなったボブは、シナールもろとも暗殺されてしまう。 アメリカの正義を追及することは、アメリカにとっては良いことだろう。 しかし、アメリカにとっての正義は、個々のアメリカ人にとって、必ずしも正義ではない。 もちろんアメリカ人以外にとっては、大迷惑どころか、犯罪ですらある。 アメリカの正義のために働く人と、その狭間で抹殺されていく人の絶望感を、この映画は感傷を排して実によく見ている。 政治の世界は非道である。 エネルギーをめぐって、世界中が争っている。 政治のリアリズムをふまえながら、この映画は人間の叫びを、映像化しようとしている。 政治の前には、人道主義はあまっちょろいが、 それでも人道主義こそ寄るべき価値観だと、そっと訴えかける。 多くの映画は、主人公の希望は実現され、めでたしめでたしで終わるのが常である。 この映画は正義が負け、悪が勝つが、単にそれだけではない。 工作員ボブに息子を登場させるし、CIAの同僚にも家族がいることを、しっかりとおさえている。 御用済みとなったボブだって、かつてはCIAの仲間だった。 しかし、組織が彼を不必要と判断したとき、同僚たちも彼から距離をとらざるを得ない。 誰にでも生活があり、組織に従わなくては生きていけない。 それはアラブの人間も同じであり、そのためにテロへと旅立っていく。 誰にでも生活があるから、工作員にもなり、テロリストにもなるし、 エネルギー・アナリストにも石油会社の弁護士にもなる。 各人は各人の位置で、日々の生活を続けることが、一方でテロリストに帰結し、一方で堅気の職業人に帰結するのだ。 個人的に悪い奴がいるわけではなく、 日常での日々の生活の追求が、それぞれの主義主張へと帰結していく。 ジョージ・クルーニーとスティーブン・ソダーバーグが製作に携わっているせいでか、 アメリカのエゴが徹底的に批判されている。 この映画はきわめて公平な視線を、アラブに対して向けている。 ジョージ・クルーニーが16キロも太って、CIAの工作員になり切っている。 映画としても良くできており、もちろん星を献上するのだが、 1つにするか2つにするかで迷っている。 この映画にオスカーが行かなかったことと、冷徹なリアリズムと人道主義に敬意を表して、 ちょっと甘いかも知れないが2つにする。 ちなみにシリアナとは、アメリカに忠実な中近東の仮想国のことだという。 2005年アメリカ映画 (2006.3.22) |
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