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 ☆☆  もののけ姫      宮崎駿監督

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もののけ姫 [DVD]
 宮崎駿監督のアニメ映画。長い年月をかけて、大きな構想を醸成してきた感じが伝わってくる。
日本の古い話を下敷きにしながら、近代の文明が自然を破壊し、自然の掟に逆らってきた様子を、現代的な視点で展開する。
見応えのある話の運びである。

 時代は中世に設定されているが、女性が多々良を踏んだり、ライ病の部落民が大切にされていたり、時代考証は無視している。
現代に時代を設定すると、テーマに関係ない現実まで考証をきちんとしないと、物語が嘘っぽくなってしまう。
かえって現代ではないほうが、現代的なテーマを扱いやすい。
そのため、物語は現代的なテーマだが、時代を変えたのであろう。
そのほうが余計なことが省けて、主題がはっきりとでてくる。

 アシタカの住む東国の部落に、祟り神となったイノシシが来る。
彼がそれを殺す時に、祟りの一部が彼に付いてしまう。
西国に住む命の源=シシ神にしか、祟りを消すことはできないと判り、西国へ出発する。

 西国は先進地域であったが、もっと西にはエボシ御前が、製鉄の技術を持つ集団を率いて、山に砦を構えていた。
これが男女平等の自治をもった、一種の理想の共同体を表している。
彼等は九州もしくは帰化人を暗示しているのかも知れない。
製鉄は山を切り開くので、山の神の領域を侵していた。

 山=自然を守ろうとする動物たちと、近代的な技術を持つエボシ御前の自然開発が、正面からぶつかる。
山には、狼に育てられた少女サンがおり、彼女が自然を代表する。

 自然保護派と開発促進派のあいだに、両者が殺し合わなくてもすむ妥協点を見つけようとするのがアシタカである。
エボシ御前の力を利用したい現実的な人間勢力が、彼女と組んで自然に立ち向かい、最後には自然の命の源であるシシ神を殺してしまう。

 縄文的なイメージ、手塚治虫の「火の鳥」の生命源のアイディア、古事記や風土記などの歴史、西国と東国の文化格差など、様々なアイディアを盛り込んで、現代的な開発か自然かを展開する。
結論が自然の命の源を殺しながら、自然と開発の調和を語るところは、やや首をひねるが、現状ではこれ以外の結論はないだろう。

 自然と人間世界の対立は、工業社会が行き詰まってきたことに対して上げられる声だが、その根本的な解決はいまだ無い。
単純な自然保護派のように、自然から人間が遠ざかり、自然を自然のままに置く方法ではなく、自然を人間が徹底的に管理し、自然を人間の支配下におく方向で解決がはかられるだろう。

 自然の偉大さを讃美したり、人間の卑小さを訴える方法は、今までの人間が築いてきた文明や文化を崩壊させる方向だろう。
自然が人間の営みによってほころび始めたのは、エボシ御前が言うように、人間の自然を理解する力がまだ足りないからだ。

 宮崎監督は、自然賛歌と人間賛歌のあいだで、どちらとも判断を下さない。
それが日本の今日的な思潮と良くあっている。
時代思潮が、自然賛歌から日本主義へと短絡していかなければいいが、呪いとか祟りといった非論理的な言葉が使われ、やや危険な感じもする。
自然賛歌するにしても、論理的な展開が必要で、論理も近代のものと切り捨てると、残るのは宗教である。

 ディズニー映画の登場人物が、情報社会に適応すべく小型化している。
いまや宮崎監督のアニメだけが、自然との共存という農耕社会のファンタジーにあふれ、骨太な人間像を描いている。
映画としても良くできており、見応えもあった。
1997日本映画。


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