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1974年のウォーターゲート事件で、失職したニクソン大統領へのインタビューをえがいて、瞠目すべき映画に仕上がっている。 民主主義の厳しさを見せる映画である。 我が国では決してあり得ないジャーナリズムと、政治家の息をもつかせぬ戦いが、画面からひしひしと伝わってくる。
ウォーターゲート事件から、すでに35年もたった。 歴史のなかに納まろうとしている事件だが、映画はニクソンの失職後を、こまかく再現してみせる。 ニクソン(フランク・ランジェラ)はフロスト(マイケル・シーン)からのインタビューをうけた。 イギリス人コメディアンでテレビ司会者の、フロストからのインタビューの申し出は、ニクソンにとって組しやすく見えた。 インタビューで汚名をすすいで、政界への復帰をねらった。 60万ドルという金額で、インタビューに応じることにした。 しかし、テレビをよく知ったフロストは、したたかだった。 ここにはもう一人、大きな助っ人がいた。 フロストがアメリカへの機内で、ナンパした女性キャロライン(レベッカ・ホール)である。 スポンサーがつくだろうと考えていたフロストだったが、アメリカのメージャーは冷たかった。 仕方なしに放映権を担保に、借金をしてインタビューにのぞむ。 その途中で、オーストラリアでの彼の番組が中止になるなど、資金的に絶体絶命になる。 ジャーナリスト調の対決インタビューを想定したスタッフから、フロストは手ぬるいと批判される。 大きな借金を抱え、彼は孤立する。 しかし、インタビュー最終回で、彼はニクソンを追いつめ、「大統領が行えば、違法行為も違法ではなくなる」という発言を引きだし、犯罪を認めさせた。 これでニクソンは政界に復帰できなくなった。 フロストの圧勝である。 放映権が暴騰し、彼は破産を免れた。 我が国のインタビューも、多くのスタッフによる事前準備をおこなって、準備万端で行われるだろう。 しかし、我が国とアメリカの報道では、もともと立脚する考えが違う。 我が国のマスコミは、記者クラブ制度に支えられた官報だから、政治家など体制側に不利なことは聞かない建前である。 「日本マスコミ「臆病」の構造」が描くとおりである。 しかし、マスコミ人たちの原則が違うのだ。 最近でも、イラン戦争をめぐり、アメリカの新聞記者が収監されている。 民主主義に対する考え方が違うと言ったらいいのだろうか。 大統領が言ったからではなく、言った内容を問題にする。 いくら偉い人の発言でも、内容が吟味されるのである。 最初のうちこそ、政治漫談をふりまいてニクソン圧勝の勢いだった。 しかし、フロストは真実を追究して、容赦なく切り込んでいく。 前半と後半の極端な違いは、映画だからの演出だろう。 最終回の前夜、酒に酔ったニクソンが、フロストに電話をかけてくる。 翌日、ニクソンは電話したことを覚えていない。 しかし、これはフィクションらしい。 ニクソンはゲイだったという噂もある。 当時のゲイは抑圧されていただろう。 そのせいかどうか分からないが、暗い印象で損をしている。 権謀術策政治のベテランかも知れないが、テレビ時代にはイメージが重要だ。 小泉総理が、あれだけむちゃくちゃをやれたのも、テレビを意識した演出が上手かったからだ。 テレビは真実を伝えると同時に、真実を伝えない。 政治家へのインタビューを映画化する。 そんなことを企画し、実現する。 大したものである。 我が国だって同じような政治状況でありながら、沖縄密約などマスコミは軽く扱われている。 そうでありながら、マスコミは反論しない。 ましてや他のマスコミ人たちが、政治家の死命を決するようなインタビューができるはずがない。 それは言葉のもつ力への、信頼の違いかも知れない。 ニクソンを演じたフランク・ランジェラが、似ているとは言えない顔ながら、抜群に上手い演技だった。 最初のうちこそ、違和感があったが、いつのまにか本物のニクソンのように見えてきた。 背中を丸め、ゆったりと身体を揺すりながら歩く様は、実物そっくりだった。 ニクソンが乗っていたリンカーンも、今度のオバマではキャディラックになって、洗練されていた。 そのリンカーンの黒い扉から、黒の革靴が踏みだされるシーンは、よく使われるシーンながら、自信のある男の第一歩をよく物語っていた。 ニクソンの着ていたのは、仕立ての良さそうな背広であったが、磨き込まれた黒靴の権威も大したものだった。 映画とは関係ないが、フロストたちが宿泊したビバリー・ヒルトンの客室は、とても良い雰囲気でいかにも高級そうだった。 しかし、そこに置かれた受話器は、いかにも時代遅れであった。 当時としては最先端であったろうが、設備関係はあっという間に陳腐化する。 それにたいして、室内を形作る設計思想や素材は、なんと長持ちするものだろうか。 間違いなく星を献上するが、1つにするか、2つにするかで迷っている。 1つは充分に達しているのだが、2つにするには、後日の充足感が不足している。 見た直後の衝撃力をたよりに、星を2つつける。 それほど力のある良い映画だった。 原題は「Frost/Nixon」 2008年アメリカ映画 |
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