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反戦活動をする人間は、どんな社会にも何人かは必ずいる。 反対に、参戦派も必ずいる。 反戦派は理念で行動するから、いつでも少数である。 参戦派は実利で行動するから、どこでも多数派である。 参戦派の多くは、産業界だったり軍人だったり、その家族だったりするのだろう。
アメリカの良心が撮らせた映画なのだろう。 この作品は、参戦派の男性を主人公にした、きわめつきの反戦映画である。 元軍人のハンク(トミー・リー・ジョーンズ)は、実直さを絵に描いたような人物。 軍人であることに誇りを持ち、アメリカを愛することにかけては、人後に落ちない。 ハンクには2人の男の子がいた。 父であるハンクの影響か、長男は軍人となり事故で死んだ。 弟のマイク(ジョナサン・タッカー)は、立派な父のようになりたくて、母親の反対を押し切って陸軍に志願した。 そして、イラクへと送られた。 無事に帰国したのだが、家に帰ってこない。 不思議に思ったハンクが調査にでむく。 一体何があったのか、ハンクは狐につままれたまま、調査を始める。 軍警察の事件になりそうなところ、正義感の強いエミリー刑事(シャーリーズ・セロン)が、警察の事件としてとりあげ、ハンクに協力し始める。 軍は真相を隠そうとする。 軍と警察の駆け引きのなかで、ハンクは徐々に真相を知っていく。 結局、イラクで異常な体験が、若者たちの精神をむしばみ、平常心を失って同僚が殺したのだった。 最も心を許しあった仲間が戦友だ、と考えるハンクには、異常心理で同僚を殺すのが理解できない。 地の果てまでもアメリカ軍が行くのは、民主主義を広めるためである。 アメリカ軍には正義がある、と信じるハンク。 しかし、息子たちがやっていたのは、子供を殺し、捕虜に暴行をふるうことだった。 イラクには正義の実現はない。 平常心ではやっていけずに、異常な集団と化すアメリカ軍。 ハンクにとっては、残酷な事実が明らかになっていく。 この映画がスゴイのは、反戦派の父親ではなく、元軍人しかも今でも軍の正義を信じている男を、主人公にしたことだ。 ハンクの属していた時代、アメリカ軍は正義の象徴だった。 戦友とは何にもまして信じあえる仲だ。 だから、イラクでの異常な従軍活動が、ハンクには信じられない。 正義のない闘いを強制され、高ぶった神経は異常な行動でしか、人格の統一を保てない。 ハンクは認めたくない事実を、徐々に受けいれていく。 この過程が、厳しくも冷静に描かれていく。 多くの映画は、主人公が正義派であり、主人公の望むことが実現されるように展開する。 「告発のとき」というタイトルからすれば、主人公のハンクが、アメリカ軍の恥部を告発するかのように思う。 しかし、この映画は違う。 ハンクは何も告発などしない。 元軍人ハンクのアメリカ人性の欺瞞を、白日のもとに晒す。 むしろハンクの人格が、崩壊さえしそうである。 アメリカの民主主義は、何よりも正しく、守るべきものだ。 そして、世界に広めるべき理念である。 日本には民主主義を教えることができた。 日本と同様に、イラクだって民主主義を教えれば、イラク国民もアメリカに感謝するだろう。 しかし、イラクではアメリカ軍に正義はない。 ハンクはそれを知り、アメリカへの自信をなくした。 最後には、星条旗を天地逆に掲げることになった。 主人公に声高に叫ばせるのではない。 アメリカの自信、信じていた正義、そうしたものを客観視する。 主人公を突き放し、映画表現全体を自己相対化することは、表現が成り立たないかも知れない。 少なくとも、娯楽作品としては危険な展開である。 主人公の見る目に、観客は自己を重ねて、痛快さを堪能するのが娯楽作品である。 ヤクザ映画をみれば、観客は主人公になったつもりで、楽しむのが娯楽の常道である。 しかし、この映画は、観客は主人公に自己を重ねることができない。 主人公の崩壊に、観客は身の置き所がない。 これでは娯楽作品として、ヒットは難しい。 観客を拒否するような映画は、我が国では決してみることができない。 しかも、きわめつきの反戦映画である。 こうした作品が企画を通ることは、何と言ったらいいのだろうか。 表現する主題の構造に、あまりにも大きな彼我の違いを感じる。 冒頭で実話に示唆を受けたとでる。 映画に近い事実があったのだろう。 最後に「子供たちに捧げる」と文字がでる。 アメリカ特有の父子物でもあり、しかも、シングル・マザーという母子物でもある。 だいぶ点は甘いが、星を2つ献上する。 原題は「In the Valley of Elah」 2007年アメリカ映画 (2008.07.09) |
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