タクミシネマ         マイノリティ リポート

☆☆  マイノリティ リポート
   スティーヴン・スピルバーグ監督

 現代的な問題意識、緻密に練られた脚本、持続する緊張感、丁寧な話の展開と、星二つを献上するに充分な仕上がりである。
今年の後半では、最高の映画だった。
マイノリティ・リポート 特別編 [DVD]
劇場パンフレットから

 2054年のワシントン。
未来を予測できるプリコグという人間が、凶悪な犯罪がおきるのを予測的にイメージする。
プリコグは3人おり、彼らのイメージした未来の殺人事件を、犯罪予防局が分析し犯罪を立件すれば、司法長官の許可を取って、事件発生の前に逮捕に踏み切る。
これによって、ワシントン地区は殺人事件がゼロになる。

 聞いただけでも恐ろしくなる事態だが、未来の予測が精確であるだけに、誰も文句が言えない。
このシステムのおかげで人々は、ワシントンの平和を謳歌している。
映画の主人公ジョン(トム・クルーズ)は、子供を誘拐され離婚されたことが、彼の正義感を駆り立て、犯罪予防局の優秀なチーフとなった。

 ある時、司法省からウィットワー(コリン・ファレル)という人間が、犯罪予防システムの調査に来る。
ちょうど同じ時に、ジョン自身がリオ・クロウ(マイク・バインダー)という未知の人間を、36時間後に殺すという予測がプリコグからでた。
驚愕し狼狽えたジョンは、父親代わりのバージェス局長(マックス・フォン・シドー)に相談に行く。
この事件の裏には、じつは政治的な目論見をめぐっての、罠が仕掛けられていた。


 冤罪だと確信したジョンは、システムの生みの親であるハイネマン博士(ロイス・スミス)を訪ね、対応を相談する。
マイノリティ・レポートというヒントはもらったが、生き物は生命の危機に瀕したら、相手を傷つけても自力で立ち向かうのだ、と言われただけだった。

 この映画は、きわめて複雑なストーリーを持っており、しかも一つのカットも無駄がなく、緻密に組み立てられている。
最初のうちは、複雑な物語を理解するのが困難なほどであり、観客にそうとうな緊張を強いる。
予告編で、ジョンが追われる身になることは知っていたが、なぜ追われるようになるのか、追われる身になってどうなるのかは、まったく想像もつかなかった。
観客は監督の術中である。

 2054年になると、すべての人間は網膜反応によって、きっちり管理されている。
駅や広場には、網膜検査機があり、怪しげな人間はたちまちご用になる。
管理社会で逃亡を続けるのは、至難の業である。
逮捕状が発行されたら、逃げ通すことはできない。
そのなかで、ジョンは冤罪をはらすべく、殺人者が冷凍保存されている収容所を調査したり、もっとも有能なプリコグであるアガサ(サマンサ・モートン)を連れ出したり、かつての妻ララ(キャサリン・モス)を訪ねたりする。


 結末はもっとも疑わしくなかった人物が、実は最大の悪人だったという、サスペンス推理の王道で終わる。
未来を予測するという設定のなかで、何よりも優れているのは、プリコグを3人登場させていることだ。
3人の予測は、必ずしも一致しない。
そこで2対1で少数となった予測は、可能性が低いものとして消去される。
消去された予測を、マイノリティ・リポートと呼んでいるが、マイノリティ・リポートは少数であるにすぎず、マジョリティが正しいとは限らない。
マイノリティへの目配りが、この映画の主題であろう。

 マイクロ・ソフトが1人勝ちするなか、どんな世界でも主流は巨大な1人によって独占されていく。
しかも、社会の管理化は、ますます進行する。
しかし、欲といった人間の性は、いつまでも変わることがない。
子供を誘拐されたジョンも、昼間は優秀な捜査官だが、家に帰れば覚醒剤の愛好者でもある。
裕福な人たちの社会と、スラムといわれた地域に住む人たち。
社会の格差は依然として存在する。

 便利で清潔な社会になるが、技術を使うのは人間であり、最後は人間の政治が決める。
この映画でも、システムの欠陥を言うのではない。
プリコグの予測は正確ではあるが、断片的で時間も前後しているので、それを読む技術者を介在させている。
つまり問題は、普通の人間にあるという。
普通の人が行う政治こそ、困難だが信頼せざるを得ないものだ。

 そう考えれば、新たな技樹の登場は、必ずしも人間を変えるものではない。
この映画でも、未来性を強調する最初の部分では、交通機関や住環境の未来性が描かれる。
ホログラムが実用化されており、コンピューターは立体を映しだす。
しかし、映画の展開を支えるのは、性悪を含んだ人間の全体像である。


 映画のできには、ほぼ最高の賛辞を送るが、蛇足ながらあえて苦言を呈するとすれば、物語の結末が明確に過ぎることである。
監督の主張がはっきりしているのは良いが、この手の話では結論を決めることはできない。
少数者の意見を、切り捨てないと言うのは肯首できるとしても、未来社会は一義的には決まらない。
とすれば、観客に考えさせる余地を残しておくのも、必要だろう。

 デザイナーたちの仕事にも、拍手を送りたい。
主題以外の細かい部分も良くできている。
未来を描く映画では、どこかで見た物や風景が登場するものだが、この映画のイメージは実に独創的である。
車にしてもハイウェイにしても、現実離れしない程度に未来的であり、説得的である。
スパイダーと呼ばれる調査のための機械が、驚くべき仕草を見せる。

 ヤン・デ・ボンの名前も、クレジットされていたので、撮影での協力だろうか。
犯罪予防局の面々が、空中を駈けるシーンでは、おそらくワイヤーがたくさん使われていたのだろうが、それも今では自然である。
演技の下手なトム・クルーズだが、アクション映画では下手さが目立たないし、この映画でもよく走っていた。
画面の多くが、靄がかかったようにかすんでいたのは、意識していたのだろうが、その効果はないように思う。

 車の部分では、トヨタが全面的に協力しているらしく、登場する未来車にはレクサスのマークが、晴れがましく光っていたし、最後にはトヨタに感謝すると大きく書かれていた。
また、ホシ・マリコという名前が、モーションというタイトルで登場しており、舞台裏での日本人の活躍がうかがえる。

2002年アメリカ映画   

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