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現代的な問題意識、緻密に練られた脚本、持続する緊張感、丁寧な話の展開と、星二つを献上するに充分な仕上がりである。 今年の後半では、最高の映画だった。
2054年のワシントン。 未来を予測できるプリコグという人間が、凶悪な犯罪がおきるのを予測的にイメージする。 プリコグは3人おり、彼らのイメージした未来の殺人事件を、犯罪予防局が分析し犯罪を立件すれば、司法長官の許可を取って、事件発生の前に逮捕に踏み切る。 これによって、ワシントン地区は殺人事件がゼロになる。 聞いただけでも恐ろしくなる事態だが、未来の予測が精確であるだけに、誰も文句が言えない。 このシステムのおかげで人々は、ワシントンの平和を謳歌している。 映画の主人公ジョン(トム・クルーズ)は、子供を誘拐され離婚されたことが、彼の正義感を駆り立て、犯罪予防局の優秀なチーフとなった。 ある時、司法省からウィットワー(コリン・ファレル)という人間が、犯罪予防システムの調査に来る。 ちょうど同じ時に、ジョン自身がリオ・クロウ(マイク・バインダー)という未知の人間を、36時間後に殺すという予測がプリコグからでた。 驚愕し狼狽えたジョンは、父親代わりのバージェス局長(マックス・フォン・シドー)に相談に行く。 この事件の裏には、じつは政治的な目論見をめぐっての、罠が仕掛けられていた。 マイノリティ・レポートというヒントはもらったが、生き物は生命の危機に瀕したら、相手を傷つけても自力で立ち向かうのだ、と言われただけだった。 この映画は、きわめて複雑なストーリーを持っており、しかも一つのカットも無駄がなく、緻密に組み立てられている。 最初のうちは、複雑な物語を理解するのが困難なほどであり、観客にそうとうな緊張を強いる。 予告編で、ジョンが追われる身になることは知っていたが、なぜ追われるようになるのか、追われる身になってどうなるのかは、まったく想像もつかなかった。 観客は監督の術中である。 2054年になると、すべての人間は網膜反応によって、きっちり管理されている。 駅や広場には、網膜検査機があり、怪しげな人間はたちまちご用になる。 管理社会で逃亡を続けるのは、至難の業である。 逮捕状が発行されたら、逃げ通すことはできない。 そのなかで、ジョンは冤罪をはらすべく、殺人者が冷凍保存されている収容所を調査したり、もっとも有能なプリコグであるアガサ(サマンサ・モートン)を連れ出したり、かつての妻ララ(キャサリン・モス)を訪ねたりする。 結末はもっとも疑わしくなかった人物が、実は最大の悪人だったという、サスペンス推理の王道で終わる。 未来を予測するという設定のなかで、何よりも優れているのは、プリコグを3人登場させていることだ。 3人の予測は、必ずしも一致しない。 そこで2対1で少数となった予測は、可能性が低いものとして消去される。 消去された予測を、マイノリティ・リポートと呼んでいるが、マイノリティ・リポートは少数であるにすぎず、マジョリティが正しいとは限らない。 マイノリティへの目配りが、この映画の主題であろう。 しかも、社会の管理化は、ますます進行する。 しかし、欲といった人間の性は、いつまでも変わることがない。 子供を誘拐されたジョンも、昼間は優秀な捜査官だが、家に帰れば覚醒剤の愛好者でもある。 裕福な人たちの社会と、スラムといわれた地域に住む人たち。 社会の格差は依然として存在する。 便利で清潔な社会になるが、技術を使うのは人間であり、最後は人間の政治が決める。 この映画でも、システムの欠陥を言うのではない。 プリコグの予測は正確ではあるが、断片的で時間も前後しているので、それを読む技術者を介在させている。 つまり問題は、普通の人間にあるという。 普通の人が行う政治こそ、困難だが信頼せざるを得ないものだ。 そう考えれば、新たな技樹の登場は、必ずしも人間を変えるものではない。 この映画でも、未来性を強調する最初の部分では、交通機関や住環境の未来性が描かれる。 ホログラムが実用化されており、コンピューターは立体を映しだす。 しかし、映画の展開を支えるのは、性悪を含んだ人間の全体像である。 映画のできには、ほぼ最高の賛辞を送るが、蛇足ながらあえて苦言を呈するとすれば、物語の結末が明確に過ぎることである。 監督の主張がはっきりしているのは良いが、この手の話では結論を決めることはできない。 少数者の意見を、切り捨てないと言うのは肯首できるとしても、未来社会は一義的には決まらない。 とすれば、観客に考えさせる余地を残しておくのも、必要だろう。 主題以外の細かい部分も良くできている。 未来を描く映画では、どこかで見た物や風景が登場するものだが、この映画のイメージは実に独創的である。 車にしてもハイウェイにしても、現実離れしない程度に未来的であり、説得的である。 スパイダーと呼ばれる調査のための機械が、驚くべき仕草を見せる。 ヤン・デ・ボンの名前も、クレジットされていたので、撮影での協力だろうか。 犯罪予防局の面々が、空中を駈けるシーンでは、おそらくワイヤーがたくさん使われていたのだろうが、それも今では自然である。 演技の下手なトム・クルーズだが、アクション映画では下手さが目立たないし、この映画でもよく走っていた。 画面の多くが、靄がかかったようにかすんでいたのは、意識していたのだろうが、その効果はないように思う。 車の部分では、トヨタが全面的に協力しているらしく、登場する未来車にはレクサスのマークが、晴れがましく光っていたし、最後にはトヨタに感謝すると大きく書かれていた。 また、ホシ・マリコという名前が、モーションというタイトルで登場しており、舞台裏での日本人の活躍がうかがえる。 2002年アメリカ映画 |
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