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女性の孤独はきわめて現代的な主題だが、 この映画が描く女性の孤独は、まったく現代的ではない。 この映画は、モテる女性とモテない女性を対比的に描き、 たんにモテない女性の、男日照りを描いたに過ぎない。
家と家の結婚が主流だった時代ならいざ知らず、 恋愛結婚が主流になった現代では、異性を捕まえるのは競争である。 恋愛競争から外れた人は、孤閨を託つことになる。 異性から声をかけられない寂しさは、恋愛が普通の社会ではどこでもあった。 モテない人がいるのは女性に限ったことではなく、男性だってモテない奴はいくらでもいる。 専業主婦だったシーバ(ケイト・ブランシェット)は、やっと子育てから開放されて、中学の美術の教師になる。 職場への適合は順調にいくかに見えたが、 男子生徒のスティーブン(アンドリュー・シンプソン)から、言い寄られて男女の仲になってしまう。 彼は何度でも応えてくれた。 歳のはなれた夫だったことや、ダウン症の息子を育てていたことも手伝ってか、彼女は性の快楽に飢えていたのだろう。 彼女はセックスにのめり込んでいく。 2人は年齢がはなれているだけではない。 男性は15歳の未成年である。 成人女性が未成年者を誘惑すれば、あきらかな犯罪である。 こうした男女関係が、長続きするはずはなかった。 定年間際の女性教師バーバラ(ジュディ・デンチ)に知られてしまう。 バーバラはシーバと仲の良い同僚だったが、 長い男性日照りによって、屈折した心理になった女性だった。 シーバの弱みを握るかたちで、彼女を支配しようとする。 口外しないからとバーバラに諭されて、 一度はスティーブンとの仲を解消しようとするが、性の誘惑には勝てなかった。 バーバラに隠れて逢い引きを続けるが、当然のことながら発覚してしまう。 バーバラはシーバの忠誠心を試すが、シーバは彼女を選ばずに家族を選ぶ。 親切心を裏切られたバーバラは、シーバの恋愛遊戯をバラしてしまう。 そして、シーバは8ヶ月の懲役刑に処せられる。 映画では、異性の愛情に飢えたバーバラの行動が、きわめて異常に描かれている。 かつても同僚の女性につきまとい、ノイローゼに落ち込ませている。 バーバラは同性愛的な資質もある。 しかし、公平に見れば、シーバの行動のほうが、はるかに非道徳的だ。 むしろ、バーバラはシーバの行動を知ったらただちに、校長などに伝えるべきだったのかも知れにない。 しかし、シーバの行動は犯罪ではあっても、きわめて個人的なものだ。 2人が結婚してしまえば、犯罪ではなくなる。 こんな事件で個人を権力に売るのは、辛いところでもある。 このあたりの心理も、描き込んで欲しかったが、 映画はシーバの弱みを、支配の道具に使うバーバラの嫌らしさを強調していく。 映画が使う状況は、個別的なものであっても、 それが時代状況の中で一般化できるものであるはずだ。 バーバラのような女性の嫌らしさが、現代的な女性の孤独から生じるなら、 この映画に説得力があると思う。 しかし、バーバラの嫌らしさは、たんに性的欲求不満からもたらされたものだ。 性的な欲求不満が、シーバを支配するサディスティックな行動につながっていく。 性的欲求不満が異常行動へ結果するというのは、フロイト以来であり、少しも現代的ではない。 フロイトなら、バーバラはヒステリーである、の一言で片付けてしまうだろう。 恋愛の敗者が恋愛の勝者に嫉妬する。 こんな主題は、はるか昔のものである。 現代女性の孤独とは、性的に満たされても、なお心のなかを吹き抜ける風にあるはずだ。 それは神や父を殺した男性と、まったく同質の孤独であるはずで、性的な世界の孤独ではない。 神の僕として農耕社会に生きた人間には、現代人のような孤独はなかった。 しかし、近代になると、神に替わって人間が世界を創らなければならなくなった。 創造主こそ孤独なのだ。 その孤独を自立しつつある女性も、いま創造の孤独を味あわされているはずである。 創造の孤独は、性的な関係の欠落とは関係ない。 ジュディ・デンチもケイト・ブランシェットも演技は上手いが、 64歳の老監督に時代を見る目はないようだ。 2006年のアメリカ映画 (2007.6.8) |
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