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オーシャンズ 11  スティーブン・ソダーバーグ監督

 「オーシャンと11人の仲間」という旧作のリメイクであるが、脚本がしっかりしているせいか、じつに密実な仕上がりになっている。
良質な娯楽映画の典型で、2時間がゆっくりと楽しめる。
主題的には特記すべきことはないが、お金を払っても損はない映画である。
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劇場パンフレットから

 泥棒でうそつき男のダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)が、ノース・ジャージー刑務所から出所してくる。
州外にでてはいけないはずだが、そんなことはどこ吹く風である。
古い悪友を訪ねて、たちまち全米を回り始める。
もちろん次の仕事のためである。
彼はラスベガスのカジノのお金をねらっている。
相棒になるラスティー(ブラッド・ピット)を探して、まずはハリウッドへいく。

 カジノのお金は、地下60メートルの保管庫にあり、厳重な監視装置がほどこされている。
何重にも張り巡られされた防御線を、いかに突破していくかが、この映画の見せ場である。
サスペンス映画でありながら、あまりハラハラドキドキはなく、むしろ進入の手口を冷静に見せる、そんな感じの映画に仕上がっている。
そうした意味では感情に訴える要素が薄く、理性で見る映画といった感じがする。


 オーシャンの人物説明が終わると、映画は11人の悪友たちを、仲間に引き込む工作へと転じる。
メンバーが11人もいるので、1人1人説明していっても、相当な時間がかかる。
こうした映画の常として、各人を物語展開の中で自然のうちになじませることができないので、ここが工夫のしどころでもあった。
登場人物をただカメラで追うだけでは、退屈な画面になってしまう。

 観客を引き入れるためには、冒頭の引きつけが大切である。
いかに観客に興味をもたせるか、様々に異なったシーンを用意している。
怪しい友達たちを、次々に画面に登場させる。
決して退屈というほどではないが、もう少しの工夫があっても良かった。
この難しい部分をすぎると、あとの話は順調に進み始める。
ジョージ・クルーニーが主演のせいか、ややコミカルに軽い感じで展開する。

 11人の持ち分は、爆破、軽業師、侵入、スリ、コンピューター係り、詐欺師などなど、各人の特長を生かしている。
この映画は彼らの持ち味というか、チームワークによる犯罪の手口を見るものだろう。
厳重な警備をかいくぐる方法が、理詰めで構築されていく。
いかにも論理的な展開である。
防御側はコンピューターを使っているので、攻撃側も当然のこととして、コンピューターが大きな役割を果たす。
今やアメリカ映画で、コンピューターが登場しないものはない、といっても過言ではない。


 映画に仲良く登場する人たちが、スクリーン裏でも仲がいいとは限らないし、敵役が喧嘩しているとは限らない。
恋愛小説家」では恋人同士だったジャック・ニコルソンとヘレン・ハントは、スクリーンを離れると犬猿の仲だったことは有名である。
デビル」ではハリソン・フォードとブラッド・ピットは仲が悪かったらしいが、この映画ではジョージ・クルーニーとブラッド・ピットは、とても仲良さそうだった。
リラックスした雰囲気が、よく伝わってきた。

 タイトルからも判るように、ジョージ・クルーニーが主役だが、相手役をやったブラッド・ピットは実にかっこいい。
決してハンサムではないが、やや甘い感じといい、しなやかな身のこなしといい、女性の心をくすぐるには充分なスター性がある。
それにたいして、テスを演じたジュリア・ロバーツは、まっすぐ歩くことができず、役者として問題がある。
なぜ彼女が美人役なのかも理解に苦しむ。

 テスはオーシャンの奥さんだったが、彼に愛想を尽かしている。
盗みに入るカジノのオーナーであるベネディクト(アンディ・ガルシア)の恋人だという設定も強引である。
しかも、ベネディクトが彼女よりお金をとったことで、オーシャンのもとへ戻るに至っては、無理を重ねたとしか言いようがない。
女をとるか泥棒するかと、ラスティーがオーシャンに迫るシーンはあるが、彼女の登場は物語に奥行きを与えていないように感じた。


 この監督は、「セックスと嘘とビデオテープ」でデビューした人で、近未来を見据えて時代を見事に切り取っていた。
そのため、哲学的というか思想的な作風の、監督になるのかと思っていた。
しかし、「アウト・オブサイト」「トラフィック」「エリン・ブロコビッチ」と、娯楽作品を手堅くものにする監督へと、変身してしまったようだ。

 この映画も、大きな娯楽作品そのもので、大勢の登場人物、何度もの爆破シーン、精巧なSFXと、とてもお金のかかった映画である。
大金を動かせるという意味では、「セックスと嘘とビデオテープ」からみると大出世だろうが、表現者としての監督としてみると、充実した作品の作り手になったのだろうか。

 有名になった監督でも、「ファイト・クラブ」や「A.I.」などのように、先端的な主題に挑戦し続けているケースもある。
娯楽映画が悪いなどとは、もちろん言わないが、思想を表現できる資質をもった監督だっただけに、最近の作品にはやや物足りなさを感じる。
娯楽作品のなかにも、先端的で深遠な思想をかいま見させてほしいものだ。 

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