タクミシネマ        アウト・オブ・サイト

アウト オブ サイト       スティーブン・ソダーバーグ監督

 銀行強盗200件のジャック・フォーリー(ジョージ・クルーニー)と、FBIの捜査官カレン・シスコ(ジェニファー・ロペス)との恋愛ものである。
敵対的立場という反対側にいる者の間に、純愛は成立するかという主題である。

 ジャックは名うての銀行強盗だが、失敗して刑務所に収容されること三度目。
今度は30年も食らってしまった。
場所はフロリダのグレイズ刑務所。
そんなに長い期間は服役できないと、脱獄する連中に便乗して自分も脱獄する。
たまたま刑務所に来た女性fbi捜査官カレンを人質として誘拐し、仲間の運転する車のトランクに隠れて逃走。
逃走の途中、狭いトランクの中での話から、彼はカレンに恋心を持つ。
どうしたわけか、カレンのほうもまんざらではない。
いつの間にか、二人は立場を越えて、不思議な恋人になる。

 ジャックは、獄中で知り合った株屋で金持ちのリプリー(アルバート・ブルックス)の家に、ダイヤモンドの原石500万ドル相当を盗みにはいる。
リプリーの家はデトロイトにある。
これを最後に足を洗おうとしている。
以前からの友人バディ・ブラック(ヴング・レイムス)以外はまったく信用できないが、この計画は二人ではできないので、ムショ仲間を誘う。

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劇場パンフレットから

 この計画を察知したカレンは、単身でジャックを追ってリプリーの家に行く。
ジャックとバディは他の連中を出し抜いて、ダイヤを手に入れる。
そこで逃走を図るが、人質になった女中さんが強姦殺人されるのを心配し、仏心を出したジャックは一人残る。
ジャックは仲間三人を射殺したところで、カレンと遭遇。
ジャックはここで死ぬつもりで、拳銃の弾を抜いてカレンと対面。
カレンは心的葛藤の末、ジャックの足を撃って逮捕する。

 最後は、カレンがジャックをフロリダへと護送するところで映画は終わる。
この最後がちょっと判りにくかった。
護送車に乗ったジャックに、カレンは煙草くらいの小さなものを渡す。
映画はここで終わるのだが、小さな箱が再度の脱獄させるための道具だったのか。
つまり、カレンは護送の途中でジャックを脱獄させるのか。
それとも単なる差し入れなのか。
それがどっちだか判らなかった。

 昔風に考えれば、ジャックを愛したカレンは、立場を越えて愛情に殉じて、脱獄させる結論だろう。
そのために、カレンが護送官になったのだし、道具を差し入れたのであると見る。
ジャック一人では怪しまれると見たカレンは、もう一人の囚人の護送日程をずらして、ジャックと同じ日にしたのだ。
護送車に乗り込んできたもう一人の囚人は、ジャックの話を聞くと目がランランと輝くところからそれが伺える。
しかし脱獄させても、二人が結ばれる保証はない。

 もう一つの考えは、カレンはジャックを逮捕しなければならない職業上の義務違反はしているが、積極的に彼の悪事を手伝っているわけではない。
男性の犯罪者と捜査官の間にも、友情めいたものが芽生える映画は今までにもあった。
しかし彼等の友情が、善悪を越えることはなかった。
友情は友情であり、立場は立場である。
それの異性間版だとすれば、あの箱は単なる差し入れで、彼は脱獄できないと見る。
この映画は立場を越えた純愛を描いているのだから、脱獄から逮捕までの間だけの愛情関係で、それ以降は関知しないと言う見方である。
この最後では、どちらが正しいか判断できなかった。

 いずれにせよ、立場を越えた恋愛は可能かと言うのが、主題であることは間違いない。
人殺しをさせてしまうと、観客はジャックへ感情移入できなくなるので、ジャックに人殺しをさせてない。
冒頭の銀行強盗でも、口先だけで女子行員を脅してお金を取っている。
スティーブン・ソダーバーグ監督は、困難な主題に挑戦し、そこそこの成果を出したと言えるだろうが、新たな状況への問題提起は、どうしても無理な設定にならざるを得ない。
いまいちの説得性に欠けた。

 刀やナイフを使うのと違って、たんに拳銃を撃つだけには厳しい訓練がいらない。
使い方を習えば、女性でも拳銃は撃てる。
ところが、銃撃戦となると必ずしもそうではなく、女性の体力のなさが感じられる。
プログラムの表紙にもなっているカレンのショットガンを構えた姿は、腰が高くこのまま引き金を引いたら、たちまち体勢が崩れるだろう。
体力差のある人間が対立するとき、非力なの方がその差を埋めるのは大変なことである。
女性がFBI捜査官や消防士などになることは歓迎すべきことだとは思うが、女性たちにはやはり大いなる試練であろう。

1998年のアメリカ映画


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