タクミシネマ              エリン・ブロコビッチ

エリン ブロコビッチ   
 スティーブン・ソダーバーグ監督

 まず最初に、話は実話だと断りがあって、映画が始まる。
公害訴訟が始まった初期の頃だろうと思うが、アメリカならではの話である。
企業がつぶれたら元も子もないと考えるわが国とは、何かが違うと考えてしまう。
エリン・ブロコビッチ [DVD]
 
前宣伝のビラから

 かつてミスコンの女王だったエリン(ジュリア・ロバーツ)は、三児の母である。
しかも、二度の離婚を経験し、いまは失業中の無職である。
経済的なピンチに立たされており、求職にかけずりまわっていた。
そんなとき、交通事故にあう。
相手が赤信号を無視をして、交差点に突っ込んできたので、無条件に勝てるはずだった。
しかし、相手は良識ある医者、彼女はド派手な服装のヤンママである。
公判では卑わいな言葉を連発し、陪審員の反感をかって裁判には負けてしまった。
とうとう預金の現金残高が数十ドルとなった彼女は開き直って、裁判に負けた弁護士事務所に押し掛け就職をする。

 この弁護士は寛容な人で、低い条件ながらエリンを雇ってくれる。
そこで与えられたのはファイルの整理という単純仕事だったが、彼女はその中に水質汚染に関する書類を見つける。
pe&gという大企業が、6価クロムは有害であると知りつつ、付近の住民には安全だといって宣伝していた。
pe&g社は六価クロムの入った廃液を浄化槽に直接流し込み、
その浄化槽は防水処理されていなかったので、地下へと浸透し井戸水を汚染していたのだった。
近所では6価クロムの影響で被害が出て、死者すら出ていたが、
企業は住宅を買収して済ませようとしていた。
大規模な公害訴訟に後込みをする弁護士の尻を叩いて、法律には素人である彼女は、住民の味方として突っ走る。

 お高く止まった弁護士と違い、庶民的な彼女は住民の心をつかんでいく。
住民は彼女には何でも打ち明け、一緒に裁判を戦っていく。
法律的な技術論に足をすくわれがちなボスの弁護士を叱咤激励して、
634人の原告団を組織し、彼女たちは350億円の賠償金を獲得する。
そのエリンをジュリア・ロバーツが元気に演じている。
彼女は相変わらず大きな口であるが、ケバイ子持ちのヤンママを演じてなかなかに見せる。
細い身体に豊かな胸、それがめいっぱい強調される。
最初のうちはケバかった服装も、裁判に勝って仕事に油が乗り出す頃には、キャリア女性風になってきた。
このあたりは、「ワーキング・ガール」などでもお馴染み、アメリカ映画のお得意である。

 この映画では、男性が外で働き女性が家庭を守るという形がない。
むしろ子供を抱えた女性エリンが仕事に生きがいを感じ、
家庭の仕事をどうしようかと考えているときに、ジョージという家事大好き人間が登場し、子供の面倒を見てくれる。
彼は出世思考を持たず、ハーレーにのって自由を愛する男性である。
その彼が子供に愛情を感じ、ベイビーシッターをかってでてくれる。
何かに打ち込む姿は、誰にも通じるようで、「君は輝いている」という台詞が、ジョージや他の男性から何度も登場する。
何かに打ち込む姿に惚れるのは、男女を問わないのだろう。

 仕事に打ち込み、仕事が人間を作っていく。
そんな変身の過程を、観客は楽しく見ながら、元気つけられる映画に仕上がっている。
法律の素人エリンを、きちんとした人格として扱った弁護士事務所のボスである。
彼が映画ではとぼけた味付けとなっていたが、実際には大人だったのである。
素人の元気も専門の裏ズケがあれば、充分に花開くし、むしろ専門家は先が見えるだけに手が縮んでしまいがちになる。
b級ながら痛快な映画だった。

2000年のアメリカ映画


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