タクミシネマ              デビル

デヴィル   アラン・J・パクラ監督    

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デビル [DVD]
 IRAのテロリスト:フランシス・マグワイヤー(ブラッド・ピット)が、武器調達のためにアメリカにくる。
アメリカにも北アイルランド人はおり、その何人かはIRAのシンパでもある。
しかし、彼が居候となった家は、北アイルランド人でありながら、IRAとは関係のない警察官(ハリソン・フォード)だった。
男の子がいなかった警察官のトムは、別名ローリーをテロリストと知らずに自分の子供のようにかわいがった。

 ローリーの正体を知ったトムの苦悩と、マグワイヤーの任務と友情の狭間に揺れる気持ちを描いていく。
この映画は、政治音痴というハリウッドの悪い面が、全面的にでてしまった。
このような状況設定はあり得るし、おもしろいと思うが、制作者たちには政治と日常の位相の差が全くわかってない。

 トムがローリーをかわいがるのはいい。
しかし、独立戦争というもっとも過酷な政治闘争を戦っている戦士が、この映画のようにセンチメンタルな感情で動いているはずがない。
そして警察官であるトムの方も、単なる正義に殉じて行動するはずがない。

 政治を日常の感覚で語ろうとするから、どうしてもご都合主義になる。
マグワイヤーがIRAの戦士になるのは、自分の目の前で父親の射殺を見たからだという説明は、陳腐である。
もちろん肉親を殺されれば、誰だって反発する。
しかし政治的殺人、それはまさに「ナッシング・パーソナル」である。
個人的な怨念でないからこそ、政治的な争いは大規模な戦闘にまで発展する。

 最初の動機付けに失敗しているから、あとは恣意的な話にならざるを得ない。
同僚警官ディアスの犯人射殺といい、職を賭しての嘘の証言弁護といい、ローリーの恋人がローリーの逃亡先をばらすことといい、あり得ないことばかりである。

 ハリウッドの映画だからお金も人もかかっている。
ハリソン・フォードとブラッド・ピットという有名俳優を使いながら、脚本が立脚するセンスの悪さが物語を崩壊させている。
ハリウッドは、異常が日常になっている戦場映画は描けるが、政治闘争を個人的な次元で担う話は描けないようだ。
それはハリウッドの映画制作システムが、合議によるものだからかもしれない。
そして何より、ハリウッドが体制内存在だからであろう。

 アメリカの政治体制が暴力を許容せず、暴力には暴力で対置しようとするので、そこでの人間の細かい心理は落ちてしまう。
人間の心理を政治の次元で語ると、収拾がつかなくなる。
現実の政治=戦争では、暴力対暴力でいいのだが、物語とするには人間観察があまりにも貧困である。
この映画を見たIRAの戦士は、そんな気持ちで戦っているのではないと、監督たちを馬鹿にするだけだろう。 

 ハリソン・フォードがなぜ、スターなのかわからない。
彼は絶対正義の役が多く、人間描写に陰影がない。
この映画でも、演技は下手だった。
アラン・J・パクラ監督はベテランだが、全体にテンポがのろく、ブラッド・ピットやナターシャ・マッケルホーンなどの若手俳優を演技させきってなかった。
すでに過去の監督なのだろう。

 戦争や紛争は、映画に格好の題材を提供する。
最近では、白人たちが絡んでいる紛争がないので、IRAはこれからも取り上げられるだろうが。
戦う両者が白人だから、文化的な蔑視を背景とはできず、白人たちには物語を作りにくいだろう。
しかし、その分かえって本質に迫った話ができる。
1997年アメリカ映画。


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