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アメリカ映画に元気がなくなってしばらくたつ。 アメリカ映画は女性から子供へと主題を移していったが、近代から後近代への転換は、未体験であるだけに映像として描くことに困惑している。 個人の自立を経験した先進国では、主題が拡散してしまい、総じて映画が不振なのは当然のことだ。 イランで近代化が始まったらしく、「別離」という秀作が生みだされた。 大学教師の女性が子供の将来を案じて、海外への移住を計画する。 しかし、アルツハイマーの父親を置いていけないと、銀行員の夫は海外移住を拒否。 すると、彼女は離婚を申し立てても、海外へと移住しようとする。 ナデル(ペイマン・モアディ)とシミン(レイラ・ハタミ)は、別居を選ぶ。 しかし、母親が戻ってくる信じている娘のテルメー(サリナ・ファルハディ)は、今のところ父親と暮らしている。 女手を失ったナデルは、ラジエー(サレー・バヤト)という女性を雇って、父親の面倒を見てもらおうとする。 |
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ラジエーは小さな子供を連れてやってくる。 ちょっと目を離した隙に、父親は外へ出てしまう。 父親を捜しに出た彼女は、父親をかばって車にはねられてしまう。 翌日、彼女は体調が悪くなり病院へ行くが、その間、父親をベッドに縛りつけておく。 ところが、それをナデルに知られてしまい、手荒くクビと言い渡される。 その際、玄関先でもみ合いになり、ナデルに突き飛ばされたラジエーは、その晩に流産してしまう。 ナデルは胎児を殺したと、殺人罪で告訴される。 ナデルもラジエーの父親への行為に関して彼女を告訴する。 しかし、ラジエーの交通事故がやがて明らかになり、流産はナデルによる暴行だとは断言できなくなる。 ラジエーの夫は失業中で、極めて短気で暴力的である。 シミンの努力によって、やっと示談に持ちこむことができる。 示談交渉の席上、ラジエーがコーランにかけて誓約するような成り行きなる。 しかし、確信の持てないラジエーは、コーランにかけて誓約できない。 示談交渉は空中分解する。 お金が入ると思っていたラジエーの夫は、怒り狂ってナデルの車のフロントガラスを打ち破る。 その車で帰るシーンで、映画は終わる。 女性に生活力がなければ、離婚などできないから、海外への移住など想像だにできない。 しかし、近代化は女性に経済力をもたらした。 途上国でもインテリ女性たちは、自力で生活できるようになってきた。 ここで女性は自分の人生を選択できるようになった。 と同時に、多くの人びとはまだ神と共に生きている。 ラジエーは神の祟りを恐れて、コーランにかけての誓約ができない。 我が国なら神が見ているなどと考えないから、確信がなくても平気で誓約するだろう。 家族の平和を保つためであれば、平気でウソをつくかも知れない。 しかし、神と生きている人にとって、家族の平和を保つためには、神にウソをつくわけにはいかないのだ。 すでに近代人化したナデルは、ラジエーの妊娠を知りながら、自分や家族を守るために知らなかった、と判事の前で嘘を言う。 ウソを言ったことを娘に問い詰められる。 子供というのは、事実を喋ることと家族の維持を秤にかけないから、父親が知っていながら知らないと言うことを許せないのだ。 子供は前近代人だといっても良い。 神のいない我が国では、決して撮られることない映画である。 また、子連れのイラン人女性が海外移住を考える。 子連れで海外に出ても、女性が生活できるのだろう。 女性が離婚してまでも海外移住しようという設定があり得ないことにおいても、我が国の特異性を判らせてくれる映画である。 この映画が描くのは、時代が押しつけてくる選択なのだから、誰もこの話に黒白を付けることはできない。 この監督の「彼女が消えた浜辺」はイマイチだったが、この映画は優れた映画だと思う。 シャープな主題設定、よく練られた脚本、予断を許さない展開。 納得できる結末。 カメラワークにやや難があったが、ちょっと甘く星を2つ献上する。 原題は「JODAEIYE NADER AZ SIMIN」 2011年イラン映画 (2012.5.1) |
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