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ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)の伝記映画と言っても過言ではない。 マンデラについては言うまでもなく、反アパルトヘイト運動のため30年近く投獄されていた人物で、出所後、南アフリカの大統領に選出された。 映画自体はマンデラ賛美の映画である。
新生なった南アフリカ共和国では、白人たちが政治・経済・文化すべての面において、主導権を握っていた。 選挙が実施されて大統領に選出されたとはいえ、黒人たちは何の実権も持っていなかった。 黒人が弾圧された恨みとばかりに、ここで積年の恨みを晴らそうとすれば、白人たちの反発を買うのは目に見えていた。 そうすれば、白人たちは国外へと逃げ出して、南ア経済は破綻し内戦状態になっただろう。 マンデラは黒人の過激派を押さえ、黒白の宥和政策をとる。 そこで絶好の手段を提供してくれたのが、南アで開かれるラグビーのワールドカップだった。 ラグビーは白人のスポーツ、サッカーは黒人のスポーツと、当時の南アでは完全に棲み分けがなされていた。 白人のスポーツであるラグビーだが、南アは決して強くなかった。 主催国だから出場できるが、第1戦のオーストラリア戦で負けるだろうと予測されていた。 国内では、多数を占める黒人はラグビーに見向きもしなかった。 そこで、マンデラはラグビーを通じて、黒人の巻き込みをはかる。 ラグビーのメンバーは、たった1人の黒人を除いて、全員が白人である。 彼等だって、黒人と仲良くするつもりなどまったくない。 そんな状況に、マンデラはキャプテンのフランソワ・ピナール(マット・デイモン)を呼び出す。 そして、彼をそれとなく力づけ、黒白の融和が進むように仕向ける。 マンデラはラグビー部のメンバーの名前をすべて覚える。 いかに期待しているか、彼等にそっと分からせる。 それが功を奏して、メンバーたちは白人のチームから、国民のチームへと脱皮していく。 マンデラの政治手腕が見物である。 彼は決して叱らない。 部下を褒める。 家族とは疎遠になっても、部下たちには暖かく接する。 クリント・イーストウッドの職人的な手腕にかかっているので、それなりに面白くできており、決して退屈しない。 ラグビーの肉弾戦の凄まじさを、これでもかと画面に繰り広げる。 オリバー・ストーン監督が撮った「エニイ ギヴン サンデー」は、アメリカン フットボールの過激さを描いていたが、この映画のほうがはるかに上品であり、肉弾戦の凄まじさを迫真で描写していた。 マンデラは常に暗殺の危険にさらされている。 危機感の演出も上手い。 最後の決勝戦では、スタジアムにテロリストがいるかのごとく、フェイントをかけている。 しかし、テロリストと思わせながら、テロのシーンは見せない。 何事もなく無事に試合は終わり、南アが勝って目出度し目出度しである。 実話にもとづいているから、南アが勝つのだが、そこまでの盛り上げ方も上手い。 それだけなら、この映画に2つ星は献上しない。 映画それ自体の評価は、あくまで星1つである。 映画の作られ方に、星をもう一つ献上するのだ。 この映画がスゴイのは、今年南アで開かれるサッカーのワールドカップへの、大きなエールとなっていることだ。 南アはまだ治安が悪い。 サッカーのワールドカップが無事に開催できるか、世界中が危惧している。 しかし、この監督は、同じような状況、いやもっと悪い状況だった1994年でも、しっかりラグビーのワールドカップを開催できたではないかと描く。 厳しい状況であるときに、ただ厳しいといって危ぶむことは簡単である。 厳しい状況に、大丈夫だ、できるさ、頑張れ、俺たちがついている、と言うことこそ、本当の大人の対応である。 多くの芸能人が、オバマ大統領を支持したなかで、彼は頑固に共和党のジョン・マケインを支持し続けた。 にもかかわらず、最近の彼の映画からは、共和党とは一線を画した一貫した主張を感じる。 「ミリオンダラー ベイビィ」を転機として、価値観が大きく変わったように感じる。 「ミリ〜」では女性への価値観をかえ、「硫黄島からの手紙」や「グラン トリノ」では黄色人種への見方を変えた。 そして、この映画では、黒人に対する見方を変えてきた。 前作までは、過去の話を扱っていたが、今回はこれから開かれるワールドカップが舞台である。 自国の大会を宣伝するのなら、誰でもする。 しかし、今度のワールドカップは、南アで開催されるのだ。 この監督は、公平で、じつにフェアーである。 おそらく最も良質のアメリカン・スピリットを代表している。 脱帽である。 この作品のメッセージを、しっかりと受け止めたい。 原題は、「Invictus 」 2009年アメリカ映画 (2010.02.09) |
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