タクミシネマ        スプライス

☆☆ スプライス    ヴィンチェンゾ・ナリタ監督

 「SPLICE」とは、撚り継ぎするとか、重ね継ぎするという意味らしい。
2011年の最初に見た映画が、きわめて先鋭的な問題意識の映画だった。
しかも、多面的な読み込みを許す作品で、やや戸惑いながら、星を2つ献上する。

 クライヴ(エイドリアン・ブロディ)とエルザ(サラ・ポーリー)は、最先端の遺伝子研究者である。
2人とも優秀で、製薬会社の研究部隊のリーダーである。
遺伝子操作で新薬を開発するのは、もやは常識だろう。
製薬会社が鎬を削っているはずだが、遺伝子操作はどこまで許されるのだろうか。

Still of Sarah Polley in Splice
IMDBから
 科学者であれば、限界まで挑戦したいだろう。
人間と高等動物のDNAは、大した違いはない。
両者を組み合わせれば、新たな種を造ることもできる。
彼(女)等は、動物同士のDNAを操作して、雌雄同体の新種を創った。
そして、その先に進んでしまった。

 人間と動物のDNAを配合し、新種の生命体を生みだすことに成功した。
生みだされたのは、水中でも生きることのできる、人間そっくりの生き物だった。
しかし、これは犯罪である。

 彼(女)等はこの生き物に、ドレン(デルフィーヌ・シャネアック)と名付けて、秘密裏に育てていく。
製薬会社は儲けを追求し、研究室の移動を命じてくる。
ドレンは急速の成長してくる。
そして、問題をおこし始める。
クライヴは何度も殺そうとするが、そのたびに、エルザの研究心に負けて、生き延びさせてしまう。

 ドレンはさまざまな動物のDNAを持っているので、人間以上の能力をもっている。
運動能力はもちろん、学習能力にもすぐれている。
愛情も理解する。
はじめのうちは女性らしかった。
エルザは母親のごとく、ドレンを可愛がる。

 新種は人間の想像をこえていた。
速く走り、水中でも生き、空を飛び、おまけに尻尾には毒の針をもっていた。
気に入らなければ、毒針で一突きすれば、人間などたちまち死んでしまう。

 ドレンはクライヴとエルザのセックスをみて、愛情表現の方法を知る。
そして、クライヴを誘惑し、セックスをしてしまう。
それを見たエルザは激怒するが、ドレンは雌雄を超えていたのだ。
やがて、男性に変性したドレンは、エルザをも犯してしまう。

 エルザは母親に支配されて育ったので、母子関係が歪で、ドレンは一種のモルモットだった。
その歪みが、ドレンにも反映されていく。
男性への攻撃は、何に由来するのか。
ドレンは2人の男性を殺し、クライヴすら殺してしまう。
とうとうエルザはドレンを殺すが、その時にはエルザのお腹のなかには、ドレンの子供が宿っていた。

 クライヴとエルザの思惑が、どんどん破られていく。
新種ができたときの危険性を、そのまま映像化しており、観客の危惧どおりに映画は進む。
動物同士の新種の誕生は、オス同士の攻撃性や変性など、ドレンの行動への大きな伏線であり、恐ろしいまでに肉薄してくる。
後半になると、どんな展開になるか読めなくなり、サスペンスの趣が強くなる。

 この映画は、さまざまな読み方ができる。
まず、資本の飽くなき利潤の追求。
遺伝子操作への疑問、DNAによる新種の創造などなど、常識的な問題だけでも盛りだくさんである。
そのうえ、エルザの生い立ちから、母子への考察も深い。
我が国のように母性賛美などまったくない。
むしろ母親の愛情が、狂母の愛情に変わることや、独占欲など恐ろしい展開である。

 最後には、大きなお腹をしたエルザに、会社は守秘義務を負わせて大金を支払う。
あれだけ大きなお腹になっていれば、中の子供はクライヴの子だか、ドレンの子だかわかるだろう。
映画は明示しないが、ドレンの子だろうと思わせる。

 中絶しても良いのだ、と会社側から言われる。
しかし、エルザは<失うものは何もない>といって出産することを告げて、映画は終わる。
女性に厳しい映画でもある。
撮影監督を日本人の永田鉄男がおこなっている。
原題は「SPLICE」
2010年カナダ=フランス=アメリカ映画
(2011.1.12)

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