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民主主義の原点のような映画である。 王や貴族から大衆へと、支配者が変わっていく時代を描いている。 第二次世界大戦直前、イギリスには王の支配が残っていた。 支配者たる王と庶民の間には、画然とした壁があった。 王子が庶民と結婚する現在とは大違いだった。 ジョージX(マイケル・ガンボン)が死んだのは、1936年1月20日だから、イギリスでの民主主義の歴史はまだ100年もないのだ。
この台詞は、王の権威の変換を物語っており、それを王自身が自覚していたのだ。 だから、ラジオをつうじて国民に直接訴えかけたのだ。 まさに大衆の登場を目の前にして、王もそれに対応しようとしていた。 大衆の登場は、イギリスだけではない。 ヒトラーの登場は、大衆の支持があったから可能だったのだ。 時の首相ボールドウィン(アンソニー・アンドリュー)はヒトラーの野望を見誤ったと言っているが、当時の支配階級を見れば無理もないだろう。 王の支配なら無謀な拡大策はとらない。 大衆に支持基盤をおいたから、ヒトラーは拡大策をとれたのだ。 ジョージY(コリン・ファース)は次男だったから、王になるはずはなかった。 しかし、長男のエドワード[(ガイ・ピアース)は一度は王になるものの、ウォリス・シンプソン(イヴ・ベスト)との結婚を選んで退位してしまった。 そのため、彼に王位が廻ってきてしまった。 どもり癖がある彼は、スピーチが大の苦手だったのだ。 王子だった時代なら、スピーチを逃げることも出来た。 王となってしまえば、そうはいかない。 しかも、イギリスは負けるかも知れない戦争に突入するのだ。 国民を鼓舞するためにも、何としてもスピーチしなければならない。 何人もの医者にかかっていた。 しかし、一向に改善されなかった。 妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)が探しだした言語聴覚士ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)は、今までの医者とは違った。 王子と対等の対応を要求した。 王位継承者と言語聴覚士が対等の人間だというのが、この映画の主題なのだ。 人間の平等化は、まさに近代という20世紀そのものだ。 どもり矯正をとおして、王と庶民が平等になる過程を描いている。 ライオネル以前の医者たちは、王子に対して王位継承者=支配者として対応していた。 あとでジョージYになる彼も、それが当然と考え、自分は平民とは人種が違うと考えていた。 彼は家族からはバーティーの愛称で呼ばれていたが、庶民とは話したことすらなかった。 ライオネルはオーストラリア人である。 植民地の人間が、王子と対等の口をきくなんて、当時は想像も出来なかったに違いない。 しかし、ライオネルは王子をバーティーと呼ぼうとしたし、自分をドクターと呼ばずに、ファーストネームで呼ばせようとする。 そのうえ、自分の診療室に来いといい、禁煙を強制する。 考えられない対応である。 当然にライオネルは首になる。 他の医者では役にたたない。 ライオネルの治療には、いくらか脈のあると感じたジョージYは、再度、彼に吃音矯正を頼むことになる。 王というのは孤独なものだ。 誰も友達にはなってくれない。 治療のためとはいえ、ライオネルだけが対等の付き合いをしてくれた。 植民地の人間とも対等だという近代の人間観が、ここで大きく描かれている。 悪戦苦闘の治療だった。 治療の結果、最も大切な開戦のスピーチでは、とうとう吃音を克服していた。 この克服が庶民との共同作業、いや庶民の指導のもとになされた。 これがあたかもイギリスが勝利した原因であるかのように、映画は描いていく。 アメリカの参戦なしには、イギリスはドイツに勝てなかった。 フランスは簡単に負けているし、イギリスには独力でドイツに勝つ力はなかった。 イギリスが勝てた本当に原因は、アメリカを戦争に引きずり込んだチャーチルの存在だろう。 この映画が描くのは事実だと言うから、英国王室の柔軟性も戦争に勝つ理由だったかも知れない。 それほど説得力がある。 天皇を国民から遠ざけようとした我が国とは大きな違いである。 ほとほと困ってライオネルのところへ行く様子がよく判る。 技術の優劣は人の序列とは関係ないのだ。 コリン・ファースのどもる演技もうまい。 吃音の原因は、メンタルな問題だというのも、本当にそうだろうと思う。 強いプレッシャーや自己肯定の欠如が、ストレスを生みそれが吃音となって表れたという解釈は、よく納得できた。 いつもは妙な役を演じるヘレナ・ボナム=カーターが、珍しく普通の人間を演じていたが、彼女は何と太っていることか。 小柄なくせに大きなお尻で驚いた。 人間は平等だという主題には、このサイトは弱いのだ。 トム・フーバーはテレビ畑で活躍してきた若い監督である。 ちょっと甘いけれど、星を二つ献上する。 THE KING'S SPEECH 2010年イギリス=オーストラリア映画 (2011.3.16) |
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