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2004年の戦場、イラクを舞台にした映画だが、主題はきわめて個人的なものだ。 結論から先に言ってしまえば、爆発物処理の危険の快楽に病みつきなった、男の危険快楽中毒の物語である。
爆発物の処理は非常に危険な作業である。 まかり間違えば、爆発して命がなくなる。 ふつうの兵士の5倍の死亡率だという。 しかし、成功したときの達成感は、何ものにも代えられない。 麻薬的な快楽がある。 しかも、危険な作業を続けていくうちに、命がけの危険がないと生きていけなくなる。 習慣性があることも、麻薬と同じである。 最初の字幕にでるように、戦争は麻薬なのだ。 ウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)は、J・T・サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラディ)との3人組で、ブラボー中隊として爆発物の処理をしている。 実際に爆弾と触れるのは、ウィリアムだけである。 他の2人は、後方支援である。 いずれも困難な仕事だった。 ちょっと間違えば爆発して、自分の身体が粉々になっていた。 しかし、彼は危険な仕事を続けるうちに、危険がたまらない快感になっていた。 彼は危険に不感症になりつつあったのだ。 同僚の2人から何度も変なヤツといわれる。 仕事に熱中し、結果として危険を求める彼は、基本的な安全対策も行わなくなっていた。 ロボットを使えばすむところも、生身の身体をさらし、無線も切って処理に精神を集中した。 そのため、爆弾の処理は上手くいったが、仲間の2人を危険に巻き込むことにもなった。 無事に除隊したい2人は、ハラハラのしどうしである。 爆弾処理が上手くいったにもかかわらず、ウィリアムが無線を切ったことに、サンボーンは腹を立てて、彼を殴りつける。 その後も、ウィリアムが有能であるだけに、しばしば2人の命は危険にさらされる。 事実、ウィリアムが深追いしたために、オーウェンが敵に拘束されて、足に重傷を負ってしまう。 さいわい彼は敵から奪還されたが、足の怪我は全治6ヶ月という重傷だった。 砂漠での不発弾処理に出かけた場面では、サンボーンがウィリアムを事故に見せかけて、殺してしまおうかとすら言う。 しかし、仲間を殺すことは出来ず、やはり3人で帰ってくる。 その帰り道、米軍の賞金稼ぎを救うと、敵と交戦することになってしまう。 サンボーンが遠くの敵をライフルでねらう。 となりでウィリアムがナビゲーションする。 熱い砂漠で、じっと照準を見つめ続けるサンボーン。 ハエが顔をとびまわる。 長い時間がすぎる。 ものすごく熱い。 水分を補給する。 熱さ特有の不潔感がよくでている。 このシーンは圧巻である。 おそらくイラクでの事実だろう。 ブラボー中隊の3人をめぐって、任期明けまでの38日間を、緊張感をもって映画は進んでいく。 38日間が無事に過ぎ、ウィリアムは別れた奥さんと子供のもとに帰る。 しかし、危険中毒の彼は、平和な日常生活に耐えられない。 再び戦場へともどる。同じように対爆服をきて、彼は爆発物へと嬉々として進んでいく。 そこで、カメラがグッと引いて、映画は終わる。 レイフ・ファインズやガイ・ピアースといった有名俳優もでてはいる。 しかし、彼等はカメオ出演に近く、主人公はほんとんど無名の3人である。 有名俳優が主人公を演じると死なないが、主人公が無名のため、死ぬかも知れないという不安がある。 それがドキュメンタリーのような調子とよく合っていたし、先を読ませないと言う監督の思わくも当たっていた。 とにかく緊張感を持った2時間で、監督の並みならない力量を感じる。 このタクミ・シネマを始める直前に見た「ストレンジ・デイズ」も同じ監督だったが、女性監督とは思えない力作だった記憶がある。 この人は、大勢を動かすのがうまい。 おそらく多くの人たちは、イラクでの戦場映画としてみるだろう。 イラク戦争の映画なら、「ジャーヘッド」などすでにある。 それ以上に戦争中毒、危険中毒といった主題を語るべきだ。 この映画の凄いところは、戦争が危険という快楽を与えてしまう。 それを描いていることだ。 この切り口は新しい。 この映画にはアメリカ軍が協力していると思うが、こんな戦争否定映画によく協力したものだ。 <戦争は麻薬だ>という主張は、左派右派の両方に対して、戦争を否定する根拠になる。 暴力の行使は思考の停止である。 やはり戦争は人間を堕落させるのだ。 「THE HURT LOCKER」 2009年アメリカ映画 (2010.04.9) |
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