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キッズ・オールライト    リサ・チョロデンコ監督

 ゲイのカップルでも、結局は性別役割分業に染まっていくのか。
いささかゲンナリだったが、いろいろと考えさせられた。
生活の重さというか、時間の重さ、事実の強さといった印象である。
人間はなかなか革新できないものだ。
ゲイであるリサ・チェンデンコ監督の実体験が反映されているという。
この監督は、「ハイ アート」を撮っている。

Still of Julianne Moore, Annette Bening and Josh Hutcherson in The Kids Are All Right
IMDBから
 ニック(アネット・ベニング)とジュールス(ジュリアン・ムーア)はゲイのカップルで、若い時に出会って長年にわたって生活を共にしている。
映画のなかでは法的に結婚している設定である。
舞台はカルフォルニアのロス・アンジェルスだろうと思う。

 まずちょっと意外だったのは、ゲイの2人が見るポルが、マッチョな男性同士のカラミのポルノであることだ。
女性のゲイだから、女性同士のカラミを見るのかと思ったら、男性同士のカラミである。
しかも、きわめつきのマッチョ同士のカラミなのだ。
彼女たちの好みだから良いけど意外だった。

 ゲイの女性たちのつくる家庭は、もっとフラットなのかと思っていたら、男女のカップルと同じように性別役割分業が強いのも意外である。
ニックは医者で、ガンガン稼いでいる。
それに対して、建築家志望だったジュールスは専業主婦で、無収入なのだ。

 ニックが専業主婦を強制したわけではないが、ジュールスが家にいることを暗に求めたらしい。
ジュールスが仕事につくことを諦めて、家事を行っている。
もちろんニックは家族の全員に理解ある良き伴侶である。
しかし、ジュールスは専業主婦シンドロームに陥っている。
ニックは良心的であるだけに、ジュールスの心境は分からない。

 ジュールスのメンタリティは、ベティ・フリーダンの書いた「新しい女性の創造」そのままである。
理解ある夫、真綿で首を絞められるような家事仕事、何の不自由もない裕福な家庭生活。
しかし、専業主婦であるジュールスは、自己実現の手段を渇望している。
これでは男性の夫が、女ゲイの配偶者に替わっただけだ。

 ゲイは自由なはずだろう。
自立は何処へ行ってしまったのだ。
役割が固定したこの2人のような関係なら、結婚する必要もないだろう。
セックスの相性かと思いきや、中年になった彼女たちは、セックスはご無沙汰らしい。
これでは男女の結婚と何も変わらない。
誰と共同生活しようが自由だが、ちょっと拍子抜けでもあった。

 ニックは女の子ジョニ(ミア・ワシコウスカ)を、ジュールスは男の子レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)を、それぞれ人工授精で出産している。
18歳のジョニは、大学進学のため家を離れるのを前にして、自分の生物学的な父親が誰だが知りたくなった。
精子提供機関に聞くと、ポール(マーク・ラファロ)だとわかり、弟のレイザーと一緒に会いに行く。

 2人の母親達にもポールのことが判り、4人家族とポールの付き合いが始まる。
その結果、いろいろとごたごたが起きる。
専業主婦シンドロームに陥っていたジュールスは、当然のことながらポールとの浮気へと走る。
ジュールスは男性とのセックスを楽しむが、ニックにばれてしまう。

 しかし、ここからがまた驚きである。
ドタバタがありながら、ポールを追い出した後で、ニックはジュールスの心境を理解し、ジュールスが浮気を謝る。
そして、何もなかったようにニックとジュールスの生活が復元するのだ。

 浮気を謝ったジュールを全員が赦し、浮気相手になったポールを許さない。
4人が家族を守ると一致団結し、ポールの謝罪を拒否して、家庭の平和が回復する。
そして、ジョニを大学へと一家で送っていく。

 男女の場合には、往々にしてセックスが2人を裂いて家族を壊してしまうが、ゲイの女性が男と寝ても、家族が壊れることはない。
男とのセックスは良かったが、それと家族は別である。
セックスよりも家族の絆が大事なのだ。
ニックはポールに、自分で家族をつくれと突き放す。

 家族として長く生活を続けると、それぞれに役割ができる。
ゲイの家族であっても、その役割はまったく新しいものではなく、どこかで見たような旧来のものである。
稼ぐ役割と家事担当者がつくる関係は、男女のカップルと同じなのだ。
ゲイという女性同士のセックスこそ新しいが、この2人の関係はきわめて古い。
原題は「THE KIDS ARE ALL RIGHT」
2010年アメリカ映画
(2011.5.7)

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