タクミシネマ         ハイ・アート

 ハイ・アート     リサ・チョロデンコ監督

 仕事に熱心な若い女性シド(ラダ・ミッチェル)が、雑誌「フレーム」の編集アシスタントに昇進する。彼女はボーイ・フレンドのジェームス(ガブリエル・マン)と住んでいるが、彼は彼女の仕事に理解がない。

 彼女等のアパートの上階から、水が漏ってきた。
それを直すために上階に行くと、そこにはゲイの女性カップルである、ルーシー(アリー・シーディ)とグレタ(パトリシア・クラークソン)が住んでいた。ルーシーは有名な写真家だったが、10年前に突然姿を消し、今は写真を撮っていなかった。しかし、その部屋には彼女の写真が所狭しと並んでおり、シドはその写真に強く惹かれる。そして、雑誌に使ったらどうかと、上司に相談する。

 直属の上司はルーシーを知らなかったが、編集長は彼女を知っており、ルーシーの作品を表紙に使うと決断する。
ルーシーはシドを担当編集者にするならと、その仕事を引き受ける。
それから、ルーシーとシドの撮影が始まる。
仕事が進行するにつれ、ルーシーはシドに愛情を感じ始め、とうとう二人は肉体関係まで発展する。

前宣伝のビラから

 10年間も仕事から離れていたルーシーは、もはや何もアイディアをもってないが、写真のセンスは充分に残っている。
シドをモデルに自分とのベットシーンを撮影し、それを表紙に使うようにシドに渡す。
シドは自分の裸が写された写真にとまどうが、その写真は採用されて表紙を飾る。

 そうしたなか、ルーシーは長年一緒だったグレタから、共同生活者をシドへと乗り替える。
また、シドもボーイ・フレンドが去っていく。
ルーシーとシドが、一緒に生活を始めるべく準備を始めるとき、麻薬のオーバードーズでルーシーが死んでしまい、映画はあっけなく終わる。

 ゲイの女性が相手をかえる背景を、仕事に絡めて描いている。
女性が職場進出し、しかもゲイが広まるにつれて、当然起きる話である。
ゲイのカップルの話と言うより、人間関係が、愛情と仕事で揺れ動く物語として、みたほうがいいように思う。
まず、ルーシーとグレタのカップルだが、二人がなぜ一緒に生活しているのか、どういうところに惹かれあっているか、ちょっと理解に苦しむところがあったが、それには目をつぶろう。

 シドはルーシーの写真を見て、新たな才能を発見したと興奮する。
その時の彼女の台詞が、細かく展開されてなかなか良かった。
決して感性とは言わない。
きちんと写真を分析している。
構図、ライティングなど、記号論にもとづいて言葉で語るのである。
それは表現されたものを分析し、論理化する作業なのだが、感性でなされるどんな表現も、それを言葉で分析する必要がある。
言葉で語らないと、他人には伝わらないし、自分でもなぜ良いのか判らない。
感性を分析する能力は、日本人に決定的に欠けている。

 自分を売り出そうとしているシドに対して、ルーシーは写真家として再出発するつもりは薄く、むしろシドのために写真を撮ろうとする。
40才代と思われるルーシーが愛情を感じるシドは20才代。
このあたりは少し首を傾げるが、映画は無理なく進行する。

 この映画はセンスとしては、フェミニズムの流れのうえの映画である。
男性の上司がまったくの無能に描かれたり、シドのボーイ・フレンドが彼女の仕事や人間関係に価値を見いださなかったりと、男性に冷たい。
女性が男性と同等になる過程で、しばしば見られるアホな男性をさりげなく描いている。
女性監督が撮ったと思って、あとで調べたら、やはりリサ・チョロデンコというウクライナ系の女性監督だった。
彼女は、アメリカで教育を受けているが、この映画に描かれたとうりの男性はたくさんいる。

 10年前の写真家ということで、ライカを持たせたりしているが、ルーシーには写真家らしい慣れた手つきがないように感じた。
映画としては、物語性がやや平板ながら、丁寧に作られており、なかなか好感が持てた。
明らかに女性による、女性のための映画だった。
もちろんそれは、女性のためという意味で、男性のためでもあるのだが。

1998年のアメリカ映画


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