タクミシネマ        ヒア アフター

ヒア アフター    クリント・イーストウッド監督

 死後の世界と交信できる男を中心に、死後の世界があるという話を展開している。
おそらくこの映画にとって、ストーリーはどうでも良いのだろう。
普通の映画のようなストーリーは意味がない。
それでも、なぜこの映画が撮られたのか、よく判らない。
しかし、製作総指揮がスティーブン・スピルバーグで、マット・デイモンが主演となれば、監督は力を込めた作品だと思う。

Still of Matt Damon in Hereafter
IMDBから
 映画は興行である。金儲けのために、大金をかけて映画はつくられる。
だから、どんな映画もヒットすることを願っているはずだ。
しかし、この映画はヒットをねらっていないように感じる。
スティーブン・スピルバーグとクリント・イーストウッドがそろえば、売れる映画造りのイロハを知っているだろう。
にもかかわらず、驚きのない平凡なストーリー、鈍い展開、無難なカメラ・ワークである。

 フランスの売れっ子アナウンサーのマリー(セシル・ドゥ・フランス)が、東南アジアへのプロデューサーとの不倫旅行で、津波にあって九死に一生を得る。
そこで彼女は一度死んで、死後の世界を見てきたのだった。
イギリスの貧しい少年マーカス(ジョージ・マクラレン/フランキー・マクラレン)は双子の兄が死んでしまった。
死んだ兄と話したくて仕方ない。
アメリカでは霊能者のジョージ(マット・デイモン)が、死者との対話をやめて、肉体労働者として働いていた。

 三人の話が、ロンドンで結びついていく。
三本の話は、まったく関係ない。
ただ何となくといっても良い展開で、結末で結びついていくのだ。
最初から、これらのエピソードがどう結びつくのか、朧気ながら判ってしまう。
しかも、動きの少ない画面、鈍い展開など、なかなか画面に引き込んでくれない。

 それぞれのエピソードは、特別にケチをつけるようなできではない。
マリーにしても不倫旅行という設定だし、彼女は花形アナウンサーの後をアジア系の女性に奪われている。
彼女の書いた本だって、ロンドンの本屋が拾っている。
ロンドンで泊まったのも、「メイフェアー」という高級ホテルである。

 ちょっと脱線すると、メイフェアーという地区はあるが、同名のホテルは実在しない。
グローヴナー・ハウス・ホテルかクラリッジスなどを想定してるのだろう。
映画のホテルはカッコイイ室内だった。

 マーカスの母親は麻薬中毒で、兄の死後、里親に出される。
ケース・ワーカーの対応も良いし、里親の対応だって悪くない。
イギリスの福祉はまだ健在である。
そして、ジョージにだって、メラニー(ブライス・ダラス・ハワード)という恋人ができそうになる。
しかし、ジョージが彼女の父親の霊と対話したことから、彼女が父親から性的な虐待を受けていたことが判明し、二人の仲は崩壊してしまう。

 三本のエピソードそれぞれが、説明的に過ぎるのだ。
映画のなかでエピソードが並列することはある。
その場合でも、まったく無関係というのは少ない。
他のエピソードとの連携が必要で、バラバラの話では興味が切断されてしまう。
そのうえ説明的だと、頭で理解しなければならず、なかなか感情移入できない。

 主人公はジョージなのだから、ジョージを中心にして話を進めるべきだった。
三本のエピソードが並列的に過ぎるので、興味が拡散してしまったのだ。
死後の世界を映像化するのは、とても難しいので、むしろ描かなくても良かっただろう。
むしろ、登場人物達の結びつきを、もっと早い段階でつくるべきだった。

 マーカスとジョージの出会いはともかく、マリーとジョージがなぜ結ばれるのか。
二人が出会っただけで、恋に落ちるのもちょっと肯けない。
貧乏なアメリカ人霊能者とフランスの売れっ子アナウンサーという組み合わせは、多いに無理がある。
いくらマリーが臨死体験をしたといっても、鼻っ柱の強いフランス女が、貧乏なアメリカ人に惹かれるわけがない。

 ジョージがディケンズに興味をもつ理由なども、霊との関係を持たせて欲しかった。
それにしても、ジョージがディケンズに興味をもつなんて、ハイブローには見えなかった。
マット・デイモンはハーバード出だから充分に優秀だろうが、「ボーン アイデンティティ」シリーズで肉体派のイメージが強くなっている。
そのため、ディケンズと結びつかないのだ。

 死後の世界を扱うのは難しい。
誰も体験したことはないのだから、反論を許さず、どうしても言い放しになってしまうのだ。
それに死後を映像化するのは、もっと難しい。
おそらく大ヒットを狙ってはいないだろうが、映像化に成功したとは言えない作品だった。
HEREAFTER
2010年アメリカ映画
(2011.3.10)

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