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バットマンの主題歌が、鳴り響かなかったのは残念だったが、 随分と練り込んだ脚本で、大人も楽しめる娯楽作品に仕上がっている。 物語の展開は、「スパイダー マン 2」とまったく同じであるが、主題にひねりがきいており、劇画が元になっているとは思えないほどだった。
大金持ちの両親が、息子ブルースの目の前で殺される。 これがトラウマとなって、長年にわたって彼は悩む。 そして、ヒマラヤ山中のラーズ・アル・グール(渡辺謙)のもと、ヘンリー・デュカード(ニーアム・リーソン)に従って修行した後、 本国に戻ってゴッサム市で悪と戦うことになる。 この映画のような活劇は、手に汗を握るヒヤヒヤドキドキがあればいい。 全編ハイテクの中に、グラインダーで工作したりする場面があって、ご愛敬である。 前半はちょっと鈍い感じもするが、中盤から後半にかけては、活劇的なおもしろさを充分に味あわせてくれる。 バットマンの仕掛けやドンパチは論じるまでもないが、正義が悪であり悪が正義だという、何重にもなった入れ子の構造には驚かされる。 劇画レベルでは、アメリカと我が国でも、それほどの違いはないであろう。 劇画に関しては、むしろ我が国のほうが、深い考察があるかも知れない。 しかし、劇画の主題を映画として練り上げていく力量は、もうアメリカのほうが断然に上だろう。 マニアでなくても楽しめる話にする、そういった違いを感じる。 ヘンリー・デュカードが仮体したラーズ・アル・グールは、悪の代表と言うことになっているが、 実は彼は正義を実践している。 彼の言うところはこうだ。 ゴッサム市は腐敗と堕落で、街全体が悪と化している。 このまま放置すれば、悪がますます進み、 人類全体に悪が汚染をひろげ、取り返しのつかないことになってしまう。 そこで悪の代官たるラーズ・アル・グールが、人類全体の調和のために、悪の腫瘍を撲滅するのだ。 それによって、人類の調和が回復されて、世界の平和が永続できる。 ブルースの両親はゴッサム市にあって、腐敗をくい止めようとした。 彼等は個人的には正義漢だったが、悪の部分での延命は全体から見たときには、正義に反しているという。 この主題を否定するのは、なかなかに難しいことかも知れない。 しかし、目的は手段を正当化しないとは、近代法治国家の大前提だから、この映画でも近代主義は貫徹されている。 「ミスティック リバー」など平気で報復殺人を肯定している。 しかし、この映画はガンとして報復殺人を否定した。 たしかに、法が機能しなくなると、私刑を認めたくなるだろうが、 それを肯定したら近代が営々として築いた価値を、全否定することになる。 正義を相対化すると、ファッシズムになりがちだが、この映画はよく踏みとどまっている。 近代とは自然から離れた分だけ、暴力の支配から脱し、前近代より上品である。 この映画は、観念の支配に服するという意味では、きわめて上品な展開である。 アメリカの良心がなさせるのだろうか。 豪華なキャスティングで、仕掛けにもお金のかかった映画である。 しかし、主人公を演じたクリスチャン・ベールには、「アメリカン サイコ」のイメージが強く、 純粋肉体派には向かないのではないか。 小さな顔に鍛えられた身体というのは、バットマン向きかも知れないが、歯並びが悪いので、スーパースター向きではないように思う。 特徴が中途半端な感じがする。 アンジェリーナ・ジョリーのような肉体派なのか、演技派でいくのか、本人もまだ判らないのではないか。 ニッコール・キドマンに捨てられたトムだが、 彼の人気はいまだ高く、意欲のある女性なら、誰でも挑戦したくなるのも無理はない。 しかし、トムはゲイじゃないだろうか。 素直にカムアウトしたほうが良いと思う。ここはちょっと脱線である。 この映画の監督は、「メメント」の監督である。 あれほど難解だった「メメント」だったが、普通に理解可能な「インソムニア」のあと、 この大作にキャスティングされた。 力のある監督を、きちんと拾ってくるハリウッドは凄い。 アメリカでも人間関係はもちろん大切だろうが、 仲間内で閉じて新人の登場が難しい我が国より、才能に対して開かれた社会だと感じる。 2005年アメリカ映画 (2005.06.28) |
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