|
|||||||||
いかにも現代的で、難しい純愛映画である。 ジョエル(ジム・キャリー)とクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)との愛憎関係で、映画は中盤まですすむ。 しかし、中盤まで進んでも、主題が見えてこない。 途中でハワード(トム・ウィルキンソン)とメアリー(キルスティン・ダンストン)の話が登場しなかったら、この映画の主題は判らなかった。
孤独好きで、人とあまり交際しないジョエルが、放埒な女性クレメンタインに言い寄られる。 彼は戸惑いながらも、恋愛に陥っていく。 プレゼントをもって、彼女の元へいそいそと行くと、なんと彼女はまったく他人のような対応をする。 不可解なまま振られてしまった彼は、その理由を見つけだす。 クレメンタインはジュエルに関する記憶を、完全に消去したのだった。 彼女がなぜ記憶を消去したのか、その理由がいまいち判らないのだが、 そこはあまり詮索しない方がいい。 失恋した彼も彼女を忘れるために、クレメンタインにかんする自分の記憶を消すことにする。 記憶の話だから、物語は前後し、時々つじつまが合わなくなったりもする。 この部分の描写は、なかなかに斬新で、力のある監督だと思う。 時間を自由に前後させているのだから、滑らかな物語の進み方は難しい。 また、論理的な必然性を無視して良いのだから、監督にはまったく自由な展開が許される。 ある程度の制約があった方が、表現はしやすい。 まったく自由なところで話を組み立て良いとなると、 むしろ選択肢が多くなりすぎて、発想が拡がりにくいものだが、 この監督は強引と思える力業で物語を組み立てている。 記憶が決め手だから、唐突な展開にならざるを得ない。 この映画の展開に観客がついていくのは、とても集中力が必要である。 前の話のあれがこれとつながって、これがあれとつながって、と想像しながら画面を注視する。 時間や記憶を主題にすると、観客はどうしてもしんどい付き合いを要求される。 一体何が言いたいのかと思っていると、 記憶消去の医者と若い女性の話がからんできて、やっと物語の全体像がつかめる。 中年のトム・ウィルキンソンとの組み合わせは、想像がつかなかった。 その2人がかつて不倫の関係にあって、キルスティン・ダンストン演じるメアリーの記憶が消去されていた。 しかも、記憶が消去されていたので、メアリーはハワードと不倫関係にあったことを知らなかった。 しかし、気がつくと再度ハワードに好意をもってしまっていた。 記憶の消去という設定で物語を始めながら、じつは記憶を完全に消去することはできない。 頭脳の底には、体験によって刻み込まれた記憶が残っている。 その記憶を呼び起こすのは、純粋な愛情だというのが、最後に判ってくる。 この結論は設定を否定しているので、観客には判りづらいが、 判ってしまえばこの結論を言うために、反対の設定をしたのだと理解できる。 記憶のような記号の世界を扱うには、ハイテクに頼りがちになるが、 この映画は徹底してローテクに拘っている。 子供時代への回想では、大きなセットを作って、ジュエルが小さく見えるようにしているし、 キッチンの流しが湯船代わりになるシーンでは、巨大な流しを作っている。 また、風景の中にベッドが突然現れたり、ベッドが走り出したりするのも、cgを使っていない。 ローテク映画は、いかにも手作りですという感じがして、 cgに慣れた目からは不思議な感じがする。 監督はローテクの効果をねらったのだろうが、それが成功しているかは疑問である。 また、ジム・キャリーがほとんど無料で出演しているらしいが、 よほど脚本が気に入ったのだろうか。 またケイト・ウィンスレットは、上手い役者である。 「タイタニック」のイメージが強いので、彼女は大根役者かと思うと、そんなことはない。 「タイタニック」のあと、彼女は出演作品には、よく考えた選定をしている。 それはジム・キャリーにも感じる。 「マスク」「ケーブル ガイ」「ザ トゥルーマン ショー」「マン オン ザ ムーン」「マジェスティック」と、彼の出演作は、非常に時代感覚をとらえている。 彼は喜劇役者であるためか、俳優として充分に評価されていないように思う。 確かにクセのある演技だが、 今回の作品を見て今までの出演作品には、彼の信条が集約されているように感じる。 振り返ってみると、本サイトの評価では、彼の出演作には、ほとんどが星がついている。 辛口評価の本サイトから、星をとるのは難しいのだが、 彼の出演作はほぼ全作に星がついている。 これは凄いことだ。 記憶と愛情の相克を描いて、愛情に軍配を揚げるのは、 結論として賛成するか否かは別として、きわめて今日的な主題を連続的に選んでいることは、 驚くべき思考感覚である。 本作品は難しい映画で、やや娯楽性に欠けるが、 見終わって主題がよく伝わってくるし、ジョエル(ジム・キャリー)とクレメンタイン(ケイト・ウィンスレトオ)の演技に星を一つ献上する。 2005年アメリカ映画 (2005.03.29) |
|||||||||
<TAKUMI シネマ>のおすすめ映画 2009年−私の中のあなた、フロスト/ニクソン 2008年−ダーク ナイト、バンテージ・ポイント 2007年−告発のとき、それでもボクはやってない 2006年−家族の誕生、V フォー・ヴァンデッタ 2005年−シリアナ 2004年−アイ、 ロボット、ヴェラ・ドレイク、ミリオンダラー ベイビィ 2003年−オールド・ボーイ、16歳の合衆国 2002年−エデンより彼方に、シカゴ、しあわせな孤独、ホワイト オランダー、フォーン・ブース、 マイノリティ リポート 2001年−ゴースト ワールド、少林サッカー 2000年−アメリカン サイコ、鬼が来た!、ガールファイト、クイルズ 1999年−アメリカン ビューティ、暗い日曜日、ツインフォールズアイダホ、ファイト クラブ、 マトリックス、マルコヴィッチの穴 1998年−イフ オンリー、イースト・ウエスト、ザ トゥルーマン ショー、ハピネス 1997年−オープン ユア アイズ、グッド ウィル ハンティング、クワトロ ディアス、 チェイシング エイミー、フェイク、ヘンリー・フール、ラリー フリント 1996年−この森で、天使はバスを降りた、ジャック、バードケージ、もののけ姫 1995年以前−ゲット ショーティ、シャイン、セヴン、トントンの夏休み、ミュート ウィットネス、 リーヴィング ラスヴェガス |
|||||||||
|