タクミシネマ        エターナル・サンシャイン

 エターナル・サンシャイン
   ミシェル・ゴンドリー監督

 いかにも現代的で、難しい純愛映画である。
ジョエル(ジム・キャリー)とクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)との愛憎関係で、映画は中盤まですすむ。
しかし、中盤まで進んでも、主題が見えてこない。
途中でハワード(トム・ウィルキンソン)とメアリー(キルスティン・ダンストン)の話が登場しなかったら、この映画の主題は判らなかった。

エターナルサンシャイン [DVD]
劇場パンフレットから

 孤独好きで、人とあまり交際しないジョエルが、放埒な女性クレメンタインに言い寄られる。
彼は戸惑いながらも、恋愛に陥っていく。
プレゼントをもって、彼女の元へいそいそと行くと、なんと彼女はまったく他人のような対応をする。
不可解なまま振られてしまった彼は、その理由を見つけだす。

 クレメンタインはジュエルに関する記憶を、完全に消去したのだった。
彼女がなぜ記憶を消去したのか、その理由がいまいち判らないのだが、
そこはあまり詮索しない方がいい。
失恋した彼も彼女を忘れるために、クレメンタインにかんする自分の記憶を消すことにする。
記憶の話だから、物語は前後し、時々つじつまが合わなくなったりもする。


 2人の楽しかった時間と、疎遠になってからの時間が、何度も前後しながら進行する。
この部分の描写は、なかなかに斬新で、力のある監督だと思う。
時間を自由に前後させているのだから、滑らかな物語の進み方は難しい。
また、論理的な必然性を無視して良いのだから、監督にはまったく自由な展開が許される。

 ある程度の制約があった方が、表現はしやすい。
まったく自由なところで話を組み立て良いとなると、
むしろ選択肢が多くなりすぎて、発想が拡がりにくいものだが、
この監督は強引と思える力業で物語を組み立てている。
記憶が決め手だから、唐突な展開にならざるを得ない。
この映画の展開に観客がついていくのは、とても集中力が必要である。

 前の話のあれがこれとつながって、これがあれとつながって、と想像しながら画面を注視する。
時間や記憶を主題にすると、観客はどうしてもしんどい付き合いを要求される。
一体何が言いたいのかと思っていると、
記憶消去の医者と若い女性の話がからんできて、やっと物語の全体像がつかめる。

 もはや若くないとはいえ、キルスティン・ダンストンにはキャピキャピ娘のイメージがあり、
中年のトム・ウィルキンソンとの組み合わせは、想像がつかなかった。
その2人がかつて不倫の関係にあって、キルスティン・ダンストン演じるメアリーの記憶が消去されていた。
しかも、記憶が消去されていたので、メアリーはハワードと不倫関係にあったことを知らなかった。
しかし、気がつくと再度ハワードに好意をもってしまっていた。

 記憶の消去という設定で物語を始めながら、じつは記憶を完全に消去することはできない。
頭脳の底には、体験によって刻み込まれた記憶が残っている。
その記憶を呼び起こすのは、純粋な愛情だというのが、最後に判ってくる。
この結論は設定を否定しているので、観客には判りづらいが、
判ってしまえばこの結論を言うために、反対の設定をしたのだと理解できる。


 記憶のような記号の世界を扱うには、ハイテクに頼りがちになるが、
この映画は徹底してローテクに拘っている。
子供時代への回想では、大きなセットを作って、ジュエルが小さく見えるようにしているし、
キッチンの流しが湯船代わりになるシーンでは、巨大な流しを作っている。
また、風景の中にベッドが突然現れたり、ベッドが走り出したりするのも、cgを使っていない。

 ローテク映画は、いかにも手作りですという感じがして、
cgに慣れた目からは不思議な感じがする。
監督はローテクの効果をねらったのだろうが、それが成功しているかは疑問である。
また、ジム・キャリーがほとんど無料で出演しているらしいが、
よほど脚本が気に入ったのだろうか。

 ジム・キャリーは彼の特異な顔演技をおさえて、地味で自然な動きである。
またケイト・ウィンスレットは、上手い役者である。
タイタニック」のイメージが強いので、彼女は大根役者かと思うと、そんなことはない。
「タイタニック」のあと、彼女は出演作品には、よく考えた選定をしている。
それはジム・キャリーにも感じる。
「マスク」「ケーブル ガイ」「ザ トゥルーマン ショー」「マン オン ザ ムーン」「マジェスティック」と、彼の出演作は、非常に時代感覚をとらえている。

 彼は喜劇役者であるためか、俳優として充分に評価されていないように思う。
確かにクセのある演技だが、
今回の作品を見て今までの出演作品には、彼の信条が集約されているように感じる。
振り返ってみると、本サイトの評価では、彼の出演作には、ほとんどが星がついている。
辛口評価の本サイトから、星をとるのは難しいのだが、
彼の出演作はほぼ全作に星がついている。
これは凄いことだ。

 記憶と愛情の相克を描いて、愛情に軍配を揚げるのは、
結論として賛成するか否かは別として、きわめて今日的な主題を連続的に選んでいることは、
驚くべき思考感覚である。
本作品は難しい映画で、やや娯楽性に欠けるが、
見終わって主題がよく伝わってくるし、ジョエル(ジム・キャリー)とクレメンタイン(ケイト・ウィンスレトオ)の演技に星を一つ献上する。   
  2005年アメリカ映画 
(2005.03.29)

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