タクミシネマ        ティーンエイジ・パパラッチ

ティーンエイジ・パパラッチ 
エイドリアン・グルニアー監督

 有名な俳優はセレブとして、パパラッチたちに追いかけ回される。
監督と主演をやったエイドリアン・グルニアーは俳優であり、自分が追いかけられるほうだった。
パパラッチの中に、ひときわ若い子供のようなカメラマンのオースティンがいた。

 なぜ13歳の子供がパパラッチなのか。
エイドリアンはオースティンに興味をもった。
それがこの映画を撮るきっかけである。
この映画は、ドキュメンタリと言っていいだろう。
両親や周囲の先輩パパラッチたち、写真エージェント、タブロイド紙のライター、そして撮影されるセレブを取材しながら、パパラッチの生態をおっていく。

Still of Adrian Grenier in Teenage Paparazzo
IMDBから
 Alec Baldwin、Matt Damon、Paris Hilton、Whoopi Goldberg、Lindsay Lohan、Cameron Diaz、Jennifer Lopezなどなど、エイドリアンの知り合いだろう人たちが、たくさん登場している。
とくにパリス・ヒルトンは重要な役回りで、以外にしっかりしていること言って、観客を驚かせる。

 有名人に私生活はないという判決が出たらしい。
パパラッチに追いかけられるのは、セレブとして有名税の一種だろう。
では、なぜ13歳のパパラッチは問題なのか。
やはり学業がある身で、この年齢から追っかけをやっていては、将来が心配だというのだ。
これはエイドリアンの意見だった。

 オースティンは夜パパラッチをやっているから、昼間は眠っており学校に行けない。
そこで家庭教師をつけて、学校の成績はBだという。
この母親の意見が面白い。
母親はオースティンのパパラッチを認めており、サポートしている。
しかし、徐々に自分勝手になっていく息子に、このままでいいのか心配になってくる。

 4年以上にわたって撮られた映画らしく、映画が終わる頃には18歳になっている。
そして、彼はパパラッチも好きだが、ふつうの男の子になっていく。
この映画は我が国とアメリカの、子供に対する姿勢の違いを際だたせる。
我が国では素直な子供が喜ばれるが、アメリカでは子供といえども自立を良しとされる。

 オースティンは13歳でありながら、一人前の意見を持つように、周囲から期待されている。
決して子供だからといって、手加減されない。
もちろん子供だから、セレブ達が警戒心を解くと言ったことはある。
しかし、彼の行動には、自立していることを求め、大人と対等に扱おうとする。

 自立を求められるから、彼も必死で理屈を考える。
たとえそれが稚拙でも、とりあえず彼の意見なのだ。
それをもとに議論を積みかさね、独自さを形成していく。
ここには大人を見習うという姿勢はなく、自分で自分の意見を形成していく姿がある。

 学校よりもパパラッチを優先し、学び足りないところは家庭教師で補う。
今の彼にはパパラッチはかけがいのない体験である。
ほかの子供とは違っているが、ここには他ならない彼がいる。
独自性を大切にしている。
このスタンスでは我が国の教育は敵うはずがない。

 この映画を見て、報道写真家とか戦場写真家といったジャーナリスト然とした連中より、パパラッチのほうがはるかに素直だと思った。
正義を掲げる戦場写真家などは、お金に飢えた禿鷹ではないか。
ありもしない正義を気取って、じつは体制側を支えている。

 報道されないことには、民主主義は機能しないと言う。
しかし、お金を求めていることは、パパラッチと変わらない。
きれい事で殺人写真にオブラートを掛けているだけだ。
むしろ、彼等は過激な写真を撮るために、戦火が激しくなることを望んでいるようにすら感じる。
逃げまどう人を撮って、金儲けをしているだけじゃないか。

 パパラッチだって世の中の役にたっている。
むしろ平和な象徴である。
パパラッチに追いかけられなければ、セレブではないのだから、彼等がセレブを支えているのだ。
そして、お金が欲しいことを正直に言っているし、人々の癒しに貢献しているだろう。

 農村共同体に生きた時代なら、セレブなどいなかった。
王様や貴族など、庶民の生活には縁がなかった。
しかし、今では全員が社会の主人公なのだ。
そして、誰でもがセレブになりうる。
タイムリーな企画だったと思う。
原題は「TEENAGE PAPARAZZO」
2010年アメリカ映画
(2011.2.17)

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