タクミシネマ     あの日、欲望の大地で

 あの日、欲望の大地で
ギジェルモ・アリアガ監督

 いきなりシルヴィア(シャーリーズ・セロン)の全裸シーンで始まる。
最近のシャーリーズ・セロンは、「モンスター」といい「スタンド アップ」といい、問題提起的な映画に、体当たり的に出演している。
この映画も、贖罪と許しという大きな問題を扱って、とても見応えがある。

Still of Kim Basinger and Joaquim de Almeida in The Burning Plain
IMDBから

 美しいシルヴィアは、高級レストランの支配人として働いている。
仕事は忙しく、それなりに上手くいっているようだ。
しかし、同僚の男性をはじめ、男から男へと見境なくベッドに入っている。
自傷シーンがあったり、何か大きなトラウマがあるようだ。

 彼女のもとに、彼女の子供だという少女が登場することから、彼女の過去がだんだんと明らかになってくる。
彼女の母親ジーナ(キム・ベイシンガー)が、隣町のニック(ジョアキム・デ・アルメイダ)と荒野のトレーラーハウスで密会していた。
思春期の彼女は、母親が他の男とセックスに溺れるのを、苦しくたまらなく見ていた。
 
 思春期の女の子の、不倫する母親への屈折した心理が、大事件を起こしてしまう。
とある日、密会中の母親が、逃げ出してくれることを祈って、トレーラーハウスに火を付ける。
しかし、ガス爆発になってしまい、相手の男だけではなく、母親も死んでしまう。
事故として処理はされたが、実際はシルヴィアが殺したも同然だった。
それが彼女の心に、大きく残ってしまい、普通の生き方ができなくなってしまった。

 彼女は、ニックの息子のサンティアゴ(J.D. パルド成人後はダニー・ピノ)と付き合い、肉体関係を結び、2人でメキシコへと駆け落ちしてしまう。
そして、妊娠・出産するが、若かった彼女は、罪悪感に耐えられなかったのだろう。
彼女は子供をおいて、サンティアゴのもとから逃げてしまう。
ここでも、またトラウマが重なる。

 自分は悪人だという強迫観念に、さいなまれる日々となっていく。
しかし、ワンカットの自傷シーンを見せたり、断崖に立つシーンだけで、映画は彼女のトラウマや強迫観念を丹念に描くことはない。
むしろ、美しい彼女には、男たちが近寄ってくる。
そして、彼女は男たちと刹那的にベッドへと入ってしまうことを描いていく。

 彼女の過去と現在が、時間的に行ったりきたりしながら、薄皮を剥がすように明らかになっいく。
男たちとセックスにふけることは、一種の自傷行為でもあったようだ。
次から次へと、見知らぬ男と肌を重ねることによって、自己の崩壊を何とか防いでいたのだ。
自分が男に認められることが、過去を忘れさせてくれると同時に、自己の尊厳を保っていたのだろう。

 彼女の過去が明らかになるにつれ、彼女の行動が理解できるようになる。
彼女は若い時代には、マリアーナと名のっていた。
母親の不倫相手の息子サンティアゴと関係したり、若い時代の暴走とも思える行動が、サンティアゴともども切ない感じが伝わってくる。
マリアーナを演じたジェニファー・ローレンスが、自然な表情で実にうまい演技だった。

 
 母親の不倫は、何が原因だったのだろうか。
子供もたくさんいたし、トラック運転手の夫が一時的に不能だったとしても、関係が破綻していたようには見えない。
シルヴィアが相手の男から、母親を取り戻したいのは判るにしても、母親の心理へのアプローチがないので、イマイチ説得力がない。
ここがちょっと弱い。
しかし、この点を除くと、その後の展開には納得する。

 他の男と密会する母親にたいする少女の気持ち。
マリアーナは1人の女性として、自立を始めた年頃でもあり、まだ子供である年齢でもある。
恋愛感情を理解し始めているが、母親の不倫には複雑な心境である。
我が国の映画なら、母親の不倫を否定的に描くだろうが、この映画はむしろ美しく描いている。
しかし、母親は離婚へとは向かわない。
 
 母親の不倫への動機付けが不明なために、物語をささえる根幹が弱い。
ここに目をつぶれば、マリアーナからシルヴィアへの逃亡はよく判る。
アメリカでは、やはり子供の自立が、大きな主題になっているのだろう。
そうした伏線があるから、シルヴィアの苦しい人生を理解したいし、同情したくなる。

 成人したサンティアゴは事故で大怪我をおい、生死の境をさまようが、何とか一命をとりとめる。
苦しんできたシルヴィアだったが、娘マリア(テッサ・イア)の登場によって、やっと苦しみから逃れることができる。
サンティアゴの病室へはいるとき、娘とも心が通いあい、幸せな今後を予測させて映画はおわる。

 ながい贖罪の期間と、娘によって許される。
チョコレート」と同じように、親子3代にわたる因果を子供の愛が救う。
この構造も、最近のアメリカ映画らしく、子供が親を救うといった結末である。
主題に関しては、言うべき言葉はない。
しかし、主題の展開を支えるエピソードに無理が多い。


 この映画には、しばしば無理なシーンがでてくる。
レストランの支配人でありながら、彼女はタバコを吸うし、職場を抜け出すのも平気である。
レストランの支配人が、タバコを吸うだけで失格だろう。
にもかかわらず、彼女は有能な支配人と描かれている。

 客とは寝ないと言いながら、簡単に寝てしまう。
男女関係は平穏なままで終わるとは限らない。
だいたい自宅へ多くの男を連れ込んだら、危険きわまりない。
あんな日常では、平穏な生活ができるだろうか。
シルヴィアの日常の設定に無理があった。

 原題は、「The Burning Plain」である。
「あの日、欲望の大地で」という邦題とは、まったく関係ない内容である。
欲望とは何の欲望なのだろうか?
主題にたいして星を献上するが、もっと自然な設定にすべきである。
マリアーナを演じたジェニファー・ローレンスの将来が楽しみである。
2008年アメリカ映画

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