タクミシネマ        @エリザベス−ゴールデン・エイジ

 エリザベス  ゴールデン・エイジ
シェカール・カプール監督

 前作「エリザベス」の続編だと言うが、前作を見ていなくても楽しめる。
もちろん、前作を見たほうが話はよく判る。
王者の孤独を描いて、ケイト・ブランシェットが、実に上手い演技を見せる。
端正でかつ重厚な映画作り、正統的な物語の運び、充分な感興をもたらしてくれる。
 
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IMDBから

 1585年という時代設定。
世の隅々まで王制が貫徹していた時代、誰もが女王に頭をさげる。
彼女には誰も逆らわない。なにしろ彼女の権威は、神が授けたものだ。
彼女自身が、ありがたい存在だった。

 女王エリザベス1世(ケイト・ブランシェット)は、
家臣たちは自分個人にたいして親密にしているのか、
王位に親密にしているのか、つねづね疑問に感じていた。
そんななか海賊のローリー(クライブ・オーウェン)が、本音で接近してきた。

 ローリーは地球の果てを知っている。
新世界アメリカを知っている。
彼は未知の世界の話をする。
彼女は興味津々だった。
しかし、彼女は暗殺の危機にもさらされ、権力抗争がうごめいていた。
しかも、当時のスペインは無敵艦隊を誇り、イギリスへと攻め込もうとしていた。
そのため、安穏として男と付き合ってはいられなかった。

 彼女は個人の関心に生きることを諦め、国の運命に身を捧げる。
これは当然のことだ。国王は自分の愛情にしたがって、結婚するのではない。
子孫を残すために、政略結婚するのであり、王妃は産む機械にすぎない。

 王の結婚は個人的な出来事ではない。
そのため王個人は、愛情の対象を王妃以外の女性に求めるのが、当時のならわしだった。
そのあたりは、エレノア・ハーマンが「王たちのセックス」で丁寧に論じている。

 しかし、結婚すると自分が妊娠してしまうので、女王の場合は問題が難しくなる。
ロンティック・ラブなんてことはあり得なかったが、もちろん恋愛結婚もない。
身も心も男に捧げる恋をするなんてことは、考えもつかない。
だいたい女王には、恋の対象になる男が現れないだろう。

 現代の娯楽映画である以上、恋愛感情をうまく処理するのは必携である。
観客は男女は恋愛するものだと信じているから、いくら時代が違うとはいえ、
監督は女王エリザベスにも恋心をいだかせる。
しかし、それは屈折した表現になる。
自分の思う男を、侍女のベス(アビー・コーニッシュ)にそれとなく押しつける。


 2人が本気になり、妊娠・結婚ということになると、彼女は許さない。
2人を牢に入れてしまう。何と勝手な女だろう。
しかし、これが王の心理なのだ。
権力者に気に入られて近づく者は、気に入られたという理由で迫害される。
「大統領の理髪師」が描くように、これは歴史が示すところだ。

 しかし、個人的な関心など、構ってはいられない事態が発生した。
スペイン艦隊の来襲である。
戦争に負ければ、イギリスの地は踏み荒らされて、国王は処刑され国民は奴隷になる。
優秀な船乗りであるローリーを釈放する。
国を守るためだ。
イギリスを上げて、スペインと戦うことになる。
このシーンは見物である。

 我が国の天皇は、いちども前線に立ったことはない。
しかし、彼女は馬に乗り、騎士と同様に前線におもむく。
そして、戦う臣民たちと、運命を共にすると宣言する。
これでイギリス軍が奮起しないはずがない。
このエンディングにむけて、王室の事情が丁寧に描かれていく。

 いかにも映画的なカット。
立体感を充分に意識した画面など、とても映画的である。
「さらば ベルリン」で出色の演技を見せたケイト・ブランシェットの演技はいうに及ばず、
脇役も上手い。
スコットランド王女のメアリーを演じたサマンサ・モートンも上手かった。

 重厚な演出で、やや時代を感じさせるが、それでも物語とうまくあっている。
前作が成功したので、この映画には大金がかかっている。
インド人監督に、イギリス王室の物語を撮らせる度量には、毎度感心させられる。
天皇を主人公にした映画を、韓国人監督に撮らせるようなものだから、
我が国ではけっして実現することのない企画だろう。
 2007年イギリス・フランス映画
(2008.02.20)

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