タクミシネマ        イン ハー シューズ

 イン ハー シューズ    カーティス・ハンソン監督

 女性も確実に力を付けてきた。
このアメリカ映画を見ると、いまやアメリカの女性は職業選択において、
男性とほとんど同じ境遇になっていると知る。
違うのは適応方法だけだ。
女性2人が主人公だが、かつてのように女性が元気に自立する映画ではない。
しかし、現代女性の心を描いて、なかなか優れた作品に仕上がっている。

イン・ハー・シューズ [DVD]
劇場パンフレットから

 2人姉妹のローズ(トニー・コレット)とマギー(キャメロン・ディアス)は、まったく正反対の性格である。
やや太り気味な姉のローズは、愚直なまでに真面目でしっかり者。
弁護士として事務所に勤務している。
スタイル抜群の妹のマギーは無職で、ローズのアパートに居候している。
しかも、姉の衣類や靴を無断で使った上に、お金までちょろまかしている。

 マギーは姉ローズの恋人を寝取ったことから、とうとう姉のアパートを追い出される。
もちろん、ローズは男性のほうも許さない。
寝取った男は、自分の事務所の上司だったので、事務所も辞めてしまう。
ローズは弁護士をしばらく休んで、犬を散歩させるアルバイトに従事する。
かつての同僚サイモン(マーク・フォイアスタイン)と、恋人同士になるが、
妹の件を口に出来ないことから決裂してしまう。


 マギーは働こうとはするが、どこも長続きしない。
結局、言い寄る男たちをたぶらかしてセックスにふけり、彼等からお金を巻き上げている始末だった。
彼女たちの父親は健在だったが、母親はすでに他界していた。
父親は母親のお婆さんエラ(シャーリー・マクレーン)からの連絡を、彼女たちに一切伝えず、手紙も見せなかった。

 追い出されたマギーは、そっと父親の引き出しをあさり、祖母からの手紙を発見する。
行き場のない彼女は、お金をせびろうとフロリダに住むエラのもとへ行く。
エラは孫娘を歓迎はしてくれたが、
お金をせびりに来たことも、たちまちお見通し。
自分のいる老人ホームで働くようにしむける。
難読症で計算の出来ない彼女には、この職場は最適だった。

 高齢者たちばかりの老人ホームは、若者に飢えていた。
老人たちはマギーをやさしく導いてくれ、彼女はすっかり生きる自信を付ける。
エラはマギーに無断で、ローズを呼び寄せる。
女性3人があつまって、徐々に心が通い合う。
老人たちの知恵は、一度は決裂したローズとサイモンの仲を、結婚まで導いていく。

 この映画は、2人の姉妹に老人を交えて、女性たちの生き方を温かく見守っている。
おちこぼれのマギーだって全部ダメなわけじゃない。
そして、しっかり者のローズだって、全部いいわけじゃない。
小さな時から一緒に育った2人は、内心さまざまな葛藤をもちながら成長してきた。
喧嘩もしたが、やはり2人は大の仲良しなのだ。

 かつては女性は男性の伴侶となって、社会に存在した。
女性が女性自身として評価されるのではなしに、男性の社会的な地位が女性の評価だった。
しかし、いまや女性も女性自身で評価される。
裸の個人として評価されることは厳しい。
女性も言い訳が出来ないのだ。
社会的な訓練の機会が少ない女性は、とかく圧力にめげそうになる。

 ローズは弁護士だから有能なのだが、それでも事務所に自分の居場所を確保することに自信がない。
太っていることもコンプレックスになる。
履きもしない靴を大量に買い込んで、美しい自分の姿を想像している。
そのうえ男性を捕まえるのも下手だ。
彼女は普通の女性である。
いや並の女性以上の才能がある。
にもかかわらず自信がもてない。


 マギーはもっと自信がない。
男性は寄ってくるが、彼女の身体目当てである。
おまけに計算が苦手で、難読症ときている。
ふつうで言ったらオチこぼれである。
自信がないから、ますますドジを踏んでは落ち込んでいく。
彼女の世界はどんどんと狭くなる。
社会に生身を晒すのは、しんどいことだ。

 女性の自立はすでに達成されようとしているが、そこに適応するのは大変なことだ。
キャメロン・ディアスも出演していた「彼女を見ればわかること」も、
女性たちの孤独をするどく描いていたが、
この映画は「姉のいた夏、いない夏」と同様に、女性の肉親関係をからめて、揺れ動く心の様を描いている。
今後は、「ホワイト オランダー」などのように、女性同士の関係を描いた映画が増えるだろう。

 我が国では、詩の朗読などあまりしない。
言葉に意味をもたせるのは、実は男性の感覚である。
女性は自然志向とか、実感指向であって、言葉という論理を操ることは苦手のはずである。
にもかかわらず、難読症のマギーに詩を朗読させる。
ほんとうに男女の間には違いがなくなった。

 前半ははらはらさせるが、後半になるとご都合主義的な展開になる。
その点にちょっと物足りなさを感じたが、
良くできた脚本と上手な俳優たちには、感心させられた。
シャーリー・マクレーンは言うに及ばず、トニー・コレットもキャメロン・ディアスも、実に演技が上手い。
決して美人ではない彼女たちだが、主演を張るのは納得できる。

 アメリカの社会は、競争で厳しいと思う。
入社しても男性たちは訓練を受け続けてきたが、女性には訓練の機会が少なかった。
女性は社会への適応に苦慮するだろう。
しかし、美人という理由ではなしに、
演技が上手いという理由で出演依頼が来るのは、おそらくアメリカが最右翼だろう。
キャメロン・ディアスのように、ブスだが実力のある女性たちが、女性の今後を切り開いていくのだろう。
星を一つ献呈する。  
   2005年アメリカ映画
(2005.11.16)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る