タクミシネマ        ゲット ア チャンス!

ゲット ア チャンス!     マレク・カニエフスカ監督

 主役を演じるのは今年76才のポール・ニューマンだが、クリント・イーストウッドのように無様なベッドシーンは演じない。
彼は「ノーバディズ・フール」でも、老人のいい味をだしていた。
しかし、年老いても女性は好きである。
今でも女性とのラブシーンには大いに感心があるようで、幾つになっても異性への興味があるらしい。
それは本当に良いことである。

 監獄に収監されている銀行強盗ヘンリー(ポール・ニューマン)が、仮病をつかって二年半のあいだ病院送りになっていた。
監獄の病院が満床のため、彼は監獄の病院から、一時的に民間の病院へ預けられた。
医者の目はごまかせたが、看護婦キャロル(リンダ・フィオレンティーノ)の目はごまかせなかった。
彼女はたちまち仮病を見破る。
そして、ヘンリーに銀行強盗をやろうと持ちかけるのだった。

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前宣伝のビラから

 高校時代にプロム・クィーンになったほど、キャロルは飛んでるいい女だった。
同級生のウェイン(ドーモット・マルロニー)と結婚し、地元の町に住んでいるが、今ではしがない看護婦である。
年寄り相手の毎日では、楽しい将来像を描くことはできない。
プロム・キングでマッチョだったがゆえに、かつては魅力的にみえたウェインも、思ったほどには冴えない。
最近では何となくぎくしゃくしている。そこでヘンリーを誘っての銀行強盗が、楽しく思えたのである。

 彼女は現金を集めてまわる車に目を付けた。
集金後は係員も警戒しており、強奪は難しい。
集金前に輸送車を乗っ取って、自分たちで現金をかき集めようというわけだ。
ヘンリーに2人では無理だといわれて、ウェインも誘い込む。
周到に準備を進め、誰を殺すこともなく、着実に強奪を実行する。
途中で予期せぬことがあって、適度にハラハラドキドキもある。
しかし上手くいきすぎる。案の定、仲間割れが起きる。
ヘンリーが監獄へ戻されるのをめぐって、ウェインとキャロルが分裂。
ウェインはヘンリーを警察に売るが、ヘンリーとキャロルは裏をかいて脱出する。
親子ほど年の離れた男女が、仲良くなる結末である。


 この映画もまた、時代を実に良く反映している。
エントラップメント」を持ちだすまでもなく、老練な年寄り男と、若い女性のカップルの誕生というのは、今ではアメリカ映画の定番である。
しかも、この映画では若い夫がほされ、老人にとられてしまう。
スペース・カーボーイ」に限らず、いまや老人パワー全開の感じがする。
情報社会化は年齢秩序を崩壊させるが、それは老人の社会的な死を意味していない。
高齢というだけでは重きをおかれなくなった、若いというだけで軽視されなくなった、というに過ぎない。
年齢秩序の崩壊が、年寄り男と若い女性のカップルを誕生させるのは必然である。

 かつて女性は地位や財産のある男性や、三高の男性の伴侶になりたがった。
ここでは男性が強者で、女性は弱者だったので、男女は対等ではなかった。
しかし昨今の老男若女は、年齢を超えて対等な関係を作っている。
この映画でもそれは顕著で、老男のほうに若い女性を保護しようなんて気はない。
もちろん若い女性のほうにも、頼るつもりなど毛頭ない。
ただ、それぞれの能力に応じた役割分担だけがある。
それでいながら互いに魅了しあっている。

 老女若男の組合わせではなく、老男若女であるのにも理由がある。
老女若男の組み合わせが映画になりにくいのは、若男をリードできる老女がまだいないからだろう。
60年代以降には女性が元気になったとはいえ、時代は老女が男性を魅惑するまでには至っていない。
老女たちは自分を輝かせるだけで、まだ精一杯なのである。
時代が人間を鍛えるのだから、女性が社会的に鍛えられ続けば、老女若男という組み合わせも映画になるだろう。
余裕のある老女が誕生するためには、女性もストレスに曝され、時代に鍛えられる必要がある。
ハート オブ ウーマン」が撮られるわけである。


 情報社会における人間相手の肉体労働には、今後まったく希望がなくなるだろう。
毎日、些細な仕事をくりかえすだけで、自分で工夫するといった余地はない。
頭脳労働の担当者から指示されるだけで、そこには何の発展性もない。
それでいて責任だけは重い。
それはこの映画で、キャロルが演じた看護婦も同様である。
医者の指示のもとに働き、マニュアルでがんじがらめになり、独自性を発揮する余地はない。
福祉担当者といえば聞こえは良いが、キャロルの仕事からおしめ換えがなくなることはない。
今後も彼女の仕事は、肉体的なきつさが増すばかりだろう。
しかも転職しない限り、それが一生続くのだ。
人間相手の肉体労働とは、今後の三K職場の代表になるに違いない。

 画面構成が上手く、コダックフィルムの特性が充分に表れて、地味ながら色彩もよい。
撮影監督が上手いのだろう。
キャロルを演じたリンダ・フィオレンティーノの演技が上手く、美人ではないのにセクシーな雰囲気が良くでていた。
映画としては、山が終わりのほうに伸びすぎ、最後まで興味を引くには途中で息切れ感がする。
秀作というには遠いが、お金をだして損はない映画である。

2000年のアメリカ映画

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