タクミシネマ         ハート オブ ウーマン

ハート オブ ウーマン   ナンシー・マイヤーズ監督

 広告代理店に勤めるマッチョなニック(メル・ギブソン)は、クリエイティヴ・デイレクターの椅子を狙っていた。
彼には実績もあり、CDの座は確実だとされていたが、社の幹部には女性客を狙えの声が多かった。
女性向けの広告は、マッチョな彼向きではない。
ライバル会社から辣腕の女性ダーシー(ヘレン・ハント)が、CDとして引き抜かれる。

 そんなとき、彼には女性の心が読める超能力が生まれる。
ダーシーの内心を読んだ彼は、彼女に先手を打って、新しいアイディアをうちだす。
ダーシーの考えたアイディアだが、読心術でアイディアを入手したのである。
ニックが、発表することになる。
彼のプレゼで通ってしまうので、ダーシーは不要になり、彼女は首となる。
しかし、所詮ダーシーのパクリである。
ニックはアイディアの盗用に悩み、最後にダーシーに謝罪にいって映画は終わる。

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劇場パンフレットから

 有能な女性は今やたくさんおり、彼女たちは職場で大活躍している。
男性と同様に出世するには、男性以上に能力があり努力もしてきた。
彼女たちは積極的で、時とすると相手の気持ちを無視さえした。
しかし、責任ある地位につくというのは、孤独なものだ。
平だった時代とはまったく違う。
部下は思うように働かず、実績を上げることは期待される。
しかも、仕事ができるという名声には、恋人がともなわないのである。
ダーシーは典型的なできる女性である。
彼女の悩みも、実は深かった。

 社会的には、今や男性も女性もまったく同じである。
女性の自立は、男性への寄りかかりを否定した。
男性に甘えるなど、いまや想像もつかない。
男性はライバルなのだ。
しかし、自立は同時に孤独でもある。
できる男性たちは孤独を、ロータリークラブとか経営者仲間でなくさめてきた。

 女性はまだ孤独になれていない。
孤独を飼い慣らす方法を知らない。
分かってくれる男性が登場すると、ダーシーですら男性になびいてしまう。
上級職だけではない。
ローラ(マリサ・トメイ)は女優をめざすアルバイト嬢だが、決して男性に安売りしない。
その彼女も、かゆいところに手が届く男性には弱い。
読心術を心得たニックにメロメロになる。
この作品は、孤独に挫けそうになる女性たちを、力づけ励ます映画である。


 自立した女性の孤独は、わが国では話題にすらならない。
女性の自立後を描く映画は、まだマーケットが小さいのかもしれない。
アメリカ以外では、古い恋愛物にしなければ売れないのだろう。
しかし情報社会では、女性の自立を止めるわけにはいかない。
女性が孤独に悩むのは不可避である。
女性たちも困難な道を歩かざるをえず、もはや後戻りはできない。
この困難さを通ってこそ、男女は本当の意味で分かり合える。
頼る女性に頼られる男性で良いはずがない。
男女の非対称的な心理は、男女差別の温床である。

 最近のアメリカ映画は、もはや女性の自立を描かない。
女性の台頭や男女同権は、映画の主題としてはもう古い。
マーケットは小さくとも、「イヴの秘かな憂鬱」「リアル・ブロンド」など、女性の自立後を描くようになった。
女性の自立後と子供の問題が、今後のアメリカ映画の主題である。
だから、この映画がなぜ作られたかよく判るのだが、映画の作り方としては再考の余地がある。
興行的にメル・ギブソンを、主人公にせざるをえないのかも知れないが、この主題なら主人公はヘレン・ハントだろう。


 仕事のできる女性の孤独が主題だと分かるのは、映画が終わる直前である。
ヘレン・ハントを主人公にし、ニックとの関係を中心にすれば、主題がもっと早く分かり、観客は映画が楽しめるようになる。
一般に映画の真ん中までには、主題を明らかにすべきである。
活劇が売りの場合はともかく、オーソドックスな物語では前半3分の1くらいでも良い。
この映画は、何を訴えたいか分からないまま、どんどん進行してしまうので、観客を引きつける力が弱い。
今日的な主題を扱っていながら、残念である。

 マリサ・トメイが痩せてしまって、初めは別人かと思った。
メル・ギブソンは高齢にもかかわらず、きちんと体を鍛えており俳優の鏡である。
ダンスにも猛練習したのだろう。
ヘレン・ハントはお腹のあたりにたるみが出始め、ピッタリした洋服を着るには筋トレの必要がある。
ナンシー・メイヤーズという女性監督だが、リズム感や物語の作り方が古くなっている感じがする。
もっと早い展開を望む。

 2000年のアメリカ映画

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