「ジジイが地球を救う」とあったが、まさにその通り、老人の映画である。 かつては空軍の優秀なパイロットだったが、今は引退した男たちが再び宇宙へと飛び立つ話である。 若者の後塵を拝することの多い中高年としては、痛快な娯楽作品として楽しめる。 主人公のフランクは、製作・監督も手がけるクリント・イーストウッドである
冷戦時代にロシアが打ち上げた通信衛星の軌道が下がり始めた。 このままいくと30〜40日後には、地上に落ちてくると言う。 この衛星は大きすぎて、回収することはできない。 しかも、昔の衛星であるため、今では直せる人は誰もいない。 そこでこの時代に宇宙飛行士になるはずだったフランクに声がかかった。 彼は人類初の宇宙飛行士になるはずだったが、宇宙開発がNASAに移管されたため、宇宙にはいけなくなってしまったのであった。 初めは若い宇宙飛行士の訓練を、ということで依頼があったのだが、かつての仲間「チーム・ダイダロス」を宇宙へ行かせなければ、協力を断ると言ってきかない。 彼は上司のボブ(ジェイムズ・クロムウェル)に強引に認めさせる。 そして、かつての仲間であるホーク(トミー・リー・ジョーンズ)、ジェリー(ドナルド・サザーランド)、タンク(ジェームズ・ガードナー)がフランクのもとに集まってくる。 通信衛星だといっていたものが、実は原爆を搭載していることがわかり、対応に苦慮する。 そこで原爆処理のためにホークが犠牲になる。 宇宙もの特有の機械シーンが、恐いくらい精密に再現されて、お金がかかった映画だと思わせる。 大きな画面一杯に映し出される雄大な宇宙のシーンは、ビデオでは決して味わえないものだし、音響も実に効果的に使われている。 設備のいい劇場で、お金を出してみる価値は充分にある。 そして何よりも、楽しく見せる娯楽映画に仕上がっている。 この手の娯楽作品にああだこうだと言うのは、野暮であろう。楽しめればそれで良い。 それにしても、引退した男たちが宇宙へ行くという企画が映画になるというのは、宇宙飛行がそれだけ手軽になったと言うことだろう。 そうした技術の安定が、こうした映画を作らせる背景に違いない。 国家事業の宇宙飛行ですら、たった40年でこうなったのだから、先端技術の一般化は本当に早い。 商業ベースで開発されるものは、もっともっと早いのだろう。 しかも、これからはもっと早くなっていくだろう。 ちょっと気になったのは、男性たちのヒロイックさに酔う感覚である。 「アルマゲドン」でもそうだったが、地球を救うために自分の一身を犠牲的に捧げる。 この映画でも、ホークが地球を救うため、原爆を抱いて月へと死の旅にでる。 確かに他の選択肢はなく、ホークはガンで余命幾ばくもないと事前に説明はされている。 しかし、地球を救うために一身を捧げる発想は、お国のために一身を捧げる発想と何ら変わらず、どうも馴染めないのである。 しかし、それらの映画には具体的な敵がおり、男女混合の自分たちの社会が襲われ、敵と戦うという構造だった。 宇宙ものに特有なのは、男性しか登場せず、しかも救うべき地球がきわめて抽象的なことだ。 男性が地球を救う、というものが多い。 ここで言われる地球とは一体何なのだろうか。 地球はアメリカ映画が考えるように単一なものではなく、きわめて多様で複合的なものだが、対宇宙というレベルでは地球という言葉で単純化されている。 こうした男性のヒロイック指向は、女性の台頭に対する男性からの無意識の抵抗でないと良いのだが。 何とかを守るために人間の命を捧げるのは、決して美しいことではない。 そうせざるをえなくなったのは、単に事前の研究や対応が不充分だったというに過ぎない。 2000年のアメリカ映画。 |
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