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コーエン兄弟には、２つのタイプの映画がある。 「赤ちゃん泥棒」「ビッグ・リボウスキー」のようにはちゃめちゃなものと、「ファーゴ」や「未来は今」のように真面目というか、きちんと主題がわかるものである。 この作品は、あきらかに前者に属するもので、はちゃめちゃな面白さをねらったものである。 主張や主題といったものは、ないといった方がいい。 しかし、それなりに楽しめるのは、ユリシーズを下敷きにしながら綿密に組み上げた、映画監督の力量といったところだろ。
１９３０年代、ミシシッピーでの話。 アメリカは不景気の盛りだった。 懲役刑に服しているものの仕事は、道路工事である。 槌をふりあげていた３人は、鎖を足に囚人服をきたまま脱走する。 この映画は、幸せを求めた彼らの脱走日記といってもいい。 一種のロードムービーである。 主人公格のエヴェレット（ジョージ・クルーニー）は、詐欺でつかまった偽弁護士だから、口が達者である。 その相方になるのはピート（ジョン・タトロー）、二人のあいだを取り持つのは、ちょっとピントのずれたデルマー（ティム・ブレイク・ネルソン）である。 最初に出合った盲目の老黒人に「宝物を求めて長い旅をし、たくさんの困難に遭遇するだろう。宝物は見つかるが、求めていたものとは違う」といわれる。 ここで青い鳥探しの話が始まっている。この老人は最後でも締めに登場する。 魂を悪魔に売った黒人のトミー（クリス・トーマス・キング）をヒッチハイクで拾う。 魂と交換に、彼はギターがうまくなった。 ４人は地方の放送局へなだれ込んで、即席の「ずぶ濡れボーイズ」として歌ったところ、これが絶品でスカウトがくる。 彼らはお尋ね者、逃げる身には安住の地はない。 しかし、この歌が彼らを助けることになる。 エヴェレットが隠した宝というのは嘘で、離婚したかみさんペニー（ホリー・ハンター）が再婚するのを阻止するために、脱獄したのだった。 それを知ったピートは怒るが、最後には歌の力によって、知事の顧問団におさまり、ハッピーエンドになる。 ＫＫＫや黒人差別、ベイビーフェイスの銀行強盗、土地に働く人たち、呪いが信じられていた時代、などなどアメリカの古き良き時代でもある。 幸せ探しというこの映画の主題を、云々しても始まらない。 幸せ探しでは、主題としては広すぎするし、どんな幸せかもわからない。 だから、この映画の主題は、問題にすべきではないのだ。 この映画は、細かいディテールに目をこらして、南部の風景を楽しむものだろう。 フィルターをかけたような色彩は、デジタル処理されたものだそうで、特有の味があった。 ＫＫＫの集会シーンや火事のシーンも合成らしい。 こうした技術は、ほんとうに日進月歩である。 どちらかというとローテク嗜好の、この映画監督もこうした技術を使うようになった。 はちゃめちゃな映画だが、台詞がとてもハイブローなことには、毎度のことながら驚かされる。 エヴェレットの台詞だけではなく、労働者たちがしゃべる台詞も、実にハイブローで、この映画が虚構を楽しんでいることがわかる。 今やアメリカの映画監督はほとんどが大学卒で、なかには院卒もいる。 表現という作業は、観念がさせるものだが、映画は表現というより娯楽と考えられてきたので、職人的な仕事だった。 しかし今日では、映画の扱う主題は先鋭化し、きわめて知的な作業として映画製作がなされている。 ２０００年のアメリカ映画 |
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