タクミシネマ                    ファーゴ

    ファーゴ     コーエン兄弟     

 ストーリー自体は単純なのだが、なかなか含蓄に富んだ人物描写で、しかも映像が美しい映画である。
雪で白一面の画面に、ゆっくりと車が現れる。
物語の始まりを期待させる素晴らしい導入である。
この車が、話の鍵になる車を牽引している。

 金に困った男が、自分の奥さんを誘拐させ、奥さんの父親から金をとろうと、営利誘拐を計画する。
最初のシーンは、その実行犯に牽引してきた車を渡す場面へと続いていく。
八万ドルの身代金を取るが、誘拐の報酬は四万ドルで、四万ドルは返せと言う。

 しかし、父親に言った身代金は百万ドル。
父親から身代金を預かって、犯人に渡すのは自分でやるつもりである。
身代金受け渡しの間は、彼一人になるので、そのあいだでお金を猫ばばしようと言う計画である。
しかし、父親が自分で持っていくと言って、最後にこの計画は流れるのだが。

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劇場パンフレットから

 おかしな二人組の実行犯は、ドジにドジを重ねる。
まず誘拐後、途中で検問にあった警官を殺してしまい、それを目撃した人間も殺してしまう。
単なる偽装誘拐が、何人もの殺人事件へと発展してしまう。
当然のことながら、警察が動き出してくる。

 その担当警官と言うのがおかしい。
有能な彼女は、妊娠八カ月。
大きなお腹を抱えて、雪の中で捜査に走り回る。
旦那は売れない画家で、家事をしながら家にいる。
ちょうど、男と女の立場が入れ替わっている。
それでも、二人は幸せなのである。

 この女性警官が登場するまでは、むしろ平凡な映画であるが、彼女の登場が不思議な雰囲気を醸し出し、映画がしまってくる。
少しづつ証拠を固めながら捜査を続ける姿勢が、お祭的なところはまったくなく、きわめて日常的で説得的である。

 この映画の設定がミネソタなので、彼女のドイツ訛の英語がゆっくりと話されて、それが映画全体にユーモアを与えている。
のんびりとした「ヤー」という返事が、思わず笑いを誘う。
アメリカの平凡な女性警察官で、ごくふつうの人という自然な演技が実に上手い。 

 偽装誘拐を依頼する男が、実に小心者で、これには少し無理がある感じがするが、全体に人物の設定がしっかりしており、無理なく馴染んでいける。
人間に対する暖かい眼差しと、あるがままの人間をすべて許容するような懐の深さを感じる。
しかも、その人々が織りなす関係が、いくらかの皮肉と愛情を持って、たんたんと描写されいる。
特別に、大きな主張やダイナミックな画面が展開するわけではないけれど、見終わった後で何か心に残るものがある。
いい映画だと思う。

1996年のアメリカ映画


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