タクミシネマ        ヘアースプレー

 ヘアースプレー   
アダム・シャンクマン監督

 懐かしい。60年代の音楽があふれ、ツイストが画面狭しと踊っている。
ほんとうに懐かしい。68年の5月革命へとつづく60年代とは、イケイケの時代だったと、この映画を見て思いなおした。

imdbから

 時代設定は60年代にしておりながら、今日的な主張も込めている。
ほんとうの娯楽映画でありながら、きちんとした主張をも込めており、アメリカ映画のこうした製作姿勢には頭が下がる。
黒人差別だけが主題だと思いがちだが、太っているのとか、人間のあり方のさまざまな価値の並立を描いている。

 主人公のトレーシー(ニッキー・ブロンスキー)が、もっている「Integration Not Segregation」というプラカードが物語るように、分離するのではなく統一して完成しようという。
黒人にたいして差別反対というのではなく、人間を分離することに反対する。
統一が人間の完成だという視点があるから、女性差別やさまざまな差別に適応できる。

 ボルチモアに住むトレーシーは、ダンスが大好きな女子高校生だった。
当時はやっていたTVの人気番組「コーニー・コリンズ・ショー」に狂っていた。
ダンスメンバーに欠員がでたときには、ただちに応募した。
しかし、彼女はチビでデブだったので、相手にされなかった。


 高校のダンス・パーティで、コーニー・コリンズ(ジェームズ・マースデン)の目にとまり、憧れのダンス・メンバーになる。
好きなダンスに興じ、幸せな日々。
同じようにデブだったので、外出しなかった母親(ジョン・トラボルタ)が、外へでるようになるなど、彼女のTV出演のせいで、さまざまに好影響がでる。

 当時のテレビは、白人中心だった。
黒人はニグロ・デーといって、月に一度の特別日しか出演できなかった。
しかも、黒人は黒人だけ、白人は白人だけという、分離がまかり通っていた。
そんな時代に、トレーシーは黒人デモの先頭にたった。
「ミス・ヘアスプレー」コンテストとからんで、映画が進んでいく。

 黒人差別が厳しかったのは、たった50年前である。
たった50年で黒人差別が、ずっと少なくなった。
もちろん今でも差別は残っているが、それでも当時を知る者には隔世の感である。
アメリカの差別克服の歴史は、尊敬されるべきだ。
たった50年で良くここまで来た。

 映画はリズミカルに、テンポ良くすすむ。
悪役を演じるベルマ(ミッシェル・ファイファー)も上手いし、太った母親を演じるトラボルタもほほえましい。
黒人のリーダーを演じるクィーン・ラティファも、おおいに聞かせて貫禄がある。

 ミッシェル・ファイファーはきちんとした問題意識のある女優さんにみえる。
デンジャラス マインド」「アイ アム サム」「ホワイト オランダー」と、きわめて先鋭的な映画にでている。
アメリカの芸能界だって、いろいろと制限があるだろうに、自分の主張を反映できる映画を選んでいるようだ。

 字幕ではニグロ・デーをブラック・デーと、翻訳していたのは考えものだ。
ニグロは今でこそ差別用語だが、当時は普通に使われており、映画のなかでもニグロと言われている。
この映画を見るアメリカ人たちはニグロと聞く。
それをブラックと翻訳するのは、いくら差別してませんよという意思表示だとしても、映画製作者たちに礼を失するのではないか。


 ジプシーをロムと言いかえたり、ニグロをブラックと言いかえるのは、ちっとも差別克服には役立たない。
この映画のように、黒人差別撤廃を訴えている場合には、ニグロ・デイがいかなる役割だったかを描いているのだから、ニグロと訳すべきではないだろうか。 
  2007年のアメリカ映画
  (2007.11.20)

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