タクミシネマ        インベージョン

インベージョン    
オリバー・ヒルシュピーゲル監督

 宇宙でスペース・シャトルが、何かに衝突する。
衝突したのは、謎の宇宙細菌だった。
バラバラになって地上に破片が落ちる。
人間に寄生して、人間を改造してしまう。
つぎつぎに人間を襲い、人間から喜怒哀楽を奪っていく。

photo of the invasion,  nicole kidman, jackson bond
imdbから

 この映画は、不思議なことに乗組員の安否には、まったく触れない。
ふつうなら、まず人命が問題になるだろう。
このあたりに、すでにリアリティの欠如があり、丁寧な作品ではない感じが漂っている。

 キャロル(ニコール・キッドマン)は、バツイチの精神科医で、子供のオリバー(ジャクソン・ボンド)をことのほか可愛がっている。
政府の細菌専門官の元夫のタッカー(ジェレミー・ノーサム)とは、電話で対応するだけ、子供は彼女の元にいた。
しかし、スペース・シャトルの衝突後、タッカーから良き父親を演じたいので、子供を預からせて欲しいとの電話が入る。

 彼女は不審に思いながらも、タッカーにオリバーを預ける。
しかし、タッカーは宇宙からの細菌に冒されて、喜怒哀楽のない不気味な人間になっていた。
あとはお馴染みの展開である。
キャロルの恋人ベン(ダニエル・クレイグ)と、同僚のガイアーノ医師(ジェフリー・ライト)がからんで、細菌撲滅に向かう。

 「マーズ アタック」と「フライト・プラン」を掛け合わせたような映画で、いま流行の母子物である。
現代の母子物では、母親になる女性が専業主婦ではない。
キャロルは精神科医で、「フライト・プラン」のカイル(ジョディ・フォスター)と同様に、高等教育を受け、きわめて裕福である。

 映画のなかで、元夫が「君にとって一番大切なのは、まず子供、次に仕事、最後がボクだ」というが、これが現代女性の本音だろう。
高等教育を受けた現代女性たちは、並の男性以上にかしこく、男性以上の稼ぎがある。
完全に自立した女性にとって、男性は別の人格であり、自分の手の内に入れることはできない。

 しかし、子供は手に入れることはできる。
子供は大切なオモチャである。
母親が思い入れを入れれば、子供は素直に返してくれる。
母子映画の子供たちは、そろって小学生低学年で、すでに怪獣的な子供期は過ぎている。
おしめも取れているし、夜泣きもしなければ、体調が激変することもない。
女性が愛玩するにはちょうど良い。

 映画としては、理詰めの展開が破綻している。
眠ると細菌が力をもち発症するとか、感染していた期間の記憶はなくなるとか、ご都合的にすぎる。
細菌に冒された人間は、喜怒哀楽を失うので、平和を愛し争いごとをしなくなる、というが、それなら非感染者を手荒く扱うのが解せない。

 喜怒哀楽があるから、人間は争いが絶えないといい、映画の主題である喜怒哀楽があるからこそ人間だというのが、あまり説得力をもってこない。
細菌に冒された状態はファッシズムだから、もちろんキャロルが逃げるのは良いのだが、その説得力が弱い。
恋人のベンまで感染しているにもかかわらず、なぜ彼女があれほどまでに拒否するのか。

 細菌に冒された状態は、ファッシズムだからいかんというのでは、ただ前提を繰り返しているだけだ。
北朝鮮などがチラッとでたりして、製作者たちの意図は分かるのだが、悪いものは悪いと言っているようで、ちっとも論理的ではない。
しかも、珍しいことにニコール・キッドマンの演技が、絶叫型になっており、上手の手から水がもれた感じである。

 精神科医のキャロルの使っていたパソコンはマックだったが、マックが業務用に使われるようになったのだろうか。

 2007年のアメリカ映画
  (2007.10.23)

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