タクミシネマ           息もできない

息もできない   ヤン・イクチュン監督

 韓国のチンピラ・ヤクザ映画である。
我が国のヤクザ映画と違うのは、取立て屋のサンフン(ヤン・イクチュン)個人の生き様に、焦点を当てているところだ。
ヤクザ映画というより、問題のある家族を抱えた、青春の蹉跌といった主題だろうか。


公式サイトから
 サンフンは取立屋のナンバー2である。
社長より4才年下だが、取立の実務は彼がやっている。
あるとき、鼻っ柱の強い女子高生ヨニ(キム・コッピ)と出会う。
サンフンの父親は母親と妹を殺していたし、ヨニの父親はベトナム戦争で精神をやられていた。
サンフンは出所してきた父親を殴りつけ、ヨニは狂ってしまった父親に手を焼いていた。

 ヨニの母親は屋台を営んでいたが、ヤクザに屋台を暴力的に撤去され、その最中に殺されてしまった。
弟のヨンジェ(イ・ファン)は、ヨニに金をせびるだけで、高校にも行っていない。
サンフンとヨニは、何となく気があって、奇妙な付き合いが始まる。
こうした人間のかなで、ヨニの弟ヨンジェがサンフンの手下になる。


 ヨニの弟だと知らないサンフンは、ヨンジェを腰抜けと暴行を加える。
父親を殴っていたサンフンだったが、父親が自殺をはかったことから、自分の血液を提供してまで助ける。
ここでサンフンは目覚めて、取立て屋をやめて、ヨニと暮らそうとする。
しかし、罵倒されることに切れたヨンジェに殺されてしまう。

 サンフンという暴力しか自己表現を知らない男が、自分の行動に目覚めて行く過程を描き、それが適わぬまま死んでいく。
それにしても、サンフンの環境は厳しい。
そして、ヨニの環境も厳しい。
厳しいもの同士の心の通いあいが、もどかしくもギクシャクと描かれ、最後には幸せになる前に死んでしまう。


 残酷といえば残酷な運命だが、こうなるだろうなと思わせる展開である。
ふつうの自意識を持った大人とは、サンフンは会話が出来ない。
暴力しか知らない男が、甥のヒョンイン(キム・ヒス)を可愛がるのも理解できる。
まだ小学校に上がる前だと思われる小さな甥は、何も反抗しないし邪気がないから、暴力男には格好の愛玩物なのだ。

 暴力につかれた男のメンタリティを、この映画はこれでもかと描いていく。
しかも、ふつうなら、こんな男には近づかないだろう女子高校生が、サンフンに接近していく。
ヨニ家庭もふつうではない分だけ、暴力男に不感症なのだろう。

 「浮気な家族」や「オールド・ボーイ」など、優れた映画をうんできた韓国だ。
もっとレベルの高い映画はあるだろう。
暴力に溺れており、主題の仕込みに欠けるところがある。
この監督が主演もしており、ちょっと北野武に似ているところが気になる。
「BREATHLESS」
 2008年韓国映画 
(2010.05.14)

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