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思わせぶりな前宣伝だが、尻すぼみなエンディングである。 不況のあおりで、多くの会社は大量の従業員をクビにする。 クビを告げられない弱気な上司にかわって、ライアン(ジョージ・クルーニー)の会社は、クビの宣告を請けおっている。 社員である彼は、年間322日全米を飛び回って、会社に代わってクビを告げる。
バックパックに入らない荷物は、いっさい背負わないのが彼のモットー。 独身という身軽な人生を楽しんでいる。 ワンルームマンション住まいで、家に帰らないので、荷物はないに等しい。 1000万マイルのマイレージ獲得が目標である。 同じような立場のアレックス・ゴーラン(ヴェラ・ファミーガ)と出会い、気楽な恋人として付き合っている。 そんな彼に、新入社員ナタリー・キーナー(アナ・ケンドリック)の教育係が命じられる。 ナタリーはエールを主席で卒業した才媛である。 ネットを使って、クビを宣告するシステムの導入を、会社に進言する。 ドライなライアンも、さすがにネットでクビにするのには、大きな抵抗がある。 結局、対面してクビを言い渡すシステムが復活するのだが、ライアンは妹の結婚を契機に、安定や定着を求める。 そして、アレックスとの生活を夢見る。 しかし、気楽な恋人だったはずのアレックスには、夫や子供がいることが分かって、どっと落ち込んでしまう。 長年、全米を飛び回って、彼はクビを切ってきた。 クビを言い渡したあと、クビと宣告された人は落ち込む。 自殺などしないように、思いやりを持って宣告するのが、ライアンたちの技術なのだ。 しかし、彼自身が安定を求めたときには、他人のクビを切るようなわけにはいかなかった。 このエンディングは、映画の最中でずっとボクを捉えていた。 ライアンは上手にクビを宣告しているが、反対の立場だったらどうだろうと、途中で思わせてしまうのだ。 これは映画のつくりとしては、あまり上手いとは言えない。 しかし、最初、元気溌剌だったナタリーも、ボーイフレンドに振られて、意気消沈してしまう。 そうだろう。彼女はボーイフレンドの一緒に住もうという誘いにのって、卒業後わざわざ田舎町までやってきたのだ。 エール主席の彼女は、結婚願望が強かった。 山のような就職口があっただろうに、ボーイフレンドのためにクビ宣告会社を選んだのだ。 振られたナタリーに、ライアンは遊び方を教える。 一夜の男と別れ方を、講釈するシーンは良かった。 男女が気に入ったら、ベッドを共にするというのは、もう普通のことになっているようだ。 朝、ナタリーが一夜限りの男と別れてくると、男にダメージを与えずに去ってこい、とライアンがいう。 ベッドへの主導権は言うに及ばず、ベッドからの別れについても、男女同権になりつつあるのだろう。 男が襲い、女が身体を与えるという関係は、もう消失しつつあるようだ。 セックスは男女が楽しむもの、と認識されているのだろう。 ライアンは姉妹がいながら、ほとんど没交渉になっていた。 そのため、結婚式にでるのも、いささか気が引ける。 こんな時だけ、兄貴面はできない。 「新しい人生のはじめかた」でも、ハーヴェイは一目惚れしたケイトを、娘の結婚式に連れて行った。 この映画でもライアンはアレックスを妹の結婚式に同行する。 我が国だと、結婚式は親戚の集合だから、出会っただけの恋人を同行することはない。 結婚の意味が変わっているとは言うが、それとも我が国とアメリカの結婚は、なお違うのだろうか。 中年女性のアレックスが、見せる大人の女の落ち着きと、新卒の若いナタリーの対比が、とても新鮮だった。 「UP IN THE AIR」 2009年フランス=アメリカ映画 (2010.03.25) |
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