タクミシネマ  マイレージ、マイライフ

マイレージ、マイライフ    ジェイソン・ライトマン監督

 思わせぶりな前宣伝だが、尻すぼみなエンディングである。
不況のあおりで、多くの会社は大量の従業員をクビにする。
クビを告げられない弱気な上司にかわって、ライアン(ジョージ・クルーニー)の会社は、クビの宣告を請けおっている。
社員である彼は、年間322日全米を飛び回って、会社に代わってクビを告げる。

Still of George Clooney and Vera Farmiga in Up in the Air
IMDBから

 バックパックに入らない荷物は、いっさい背負わないのが彼のモットー。
独身という身軽な人生を楽しんでいる。
ワンルームマンション住まいで、家に帰らないので、荷物はないに等しい。
1000万マイルのマイレージ獲得が目標である。
同じような立場のアレックス・ゴーラン(ヴェラ・ファミーガ)と出会い、気楽な恋人として付き合っている。

 そんな彼に、新入社員ナタリー・キーナー(アナ・ケンドリック)の教育係が命じられる。
ナタリーはエールを主席で卒業した才媛である。
ネットを使って、クビを宣告するシステムの導入を、会社に進言する。
ドライなライアンも、さすがにネットでクビにするのには、大きな抵抗がある。

 ナタリーもクビを言い渡したが、その従業員はクビを気にして自殺してしまう。
結局、対面してクビを言い渡すシステムが復活するのだが、ライアンは妹の結婚を契機に、安定や定着を求める。
そして、アレックスとの生活を夢見る。
しかし、気楽な恋人だったはずのアレックスには、夫や子供がいることが分かって、どっと落ち込んでしまう。

 長年、全米を飛び回って、彼はクビを切ってきた。
クビを言い渡したあと、クビと宣告された人は落ち込む。
自殺などしないように、思いやりを持って宣告するのが、ライアンたちの技術なのだ。
しかし、彼自身が安定を求めたときには、他人のクビを切るようなわけにはいかなかった。


 このエンディングは、映画の最中でずっとボクを捉えていた。
ライアンは上手にクビを宣告しているが、反対の立場だったらどうだろうと、途中で思わせてしまうのだ。
これは映画のつくりとしては、あまり上手いとは言えない。

 ライアンたちの中年カップルに対して、ナタリーの若さが新鮮に映る。
しかし、最初、元気溌剌だったナタリーも、ボーイフレンドに振られて、意気消沈してしまう。
そうだろう。彼女はボーイフレンドの一緒に住もうという誘いにのって、卒業後わざわざ田舎町までやってきたのだ。

 エール主席の彼女は、結婚願望が強かった。
山のような就職口があっただろうに、ボーイフレンドのためにクビ宣告会社を選んだのだ。
振られたナタリーに、ライアンは遊び方を教える。
一夜の男と別れ方を、講釈するシーンは良かった。
男女が気に入ったら、ベッドを共にするというのは、もう普通のことになっているようだ。

 朝、ナタリーが一夜限りの男と別れてくると、男にダメージを与えずに去ってこい、とライアンがいう。
ベッドへの主導権は言うに及ばず、ベッドからの別れについても、男女同権になりつつあるのだろう。
男が襲い、女が身体を与えるという関係は、もう消失しつつあるようだ。
セックスは男女が楽しむもの、と認識されているのだろう。


 妹の結婚式だが、姉のほうは離婚の最中である。
ライアンは姉妹がいながら、ほとんど没交渉になっていた。
そのため、結婚式にでるのも、いささか気が引ける。
こんな時だけ、兄貴面はできない。

 「新しい人生のはじめかた」でも、ハーヴェイは一目惚れしたケイトを、娘の結婚式に連れて行った。
この映画でもライアンはアレックスを妹の結婚式に同行する。
我が国だと、結婚式は親戚の集合だから、出会っただけの恋人を同行することはない。
結婚の意味が変わっているとは言うが、それとも我が国とアメリカの結婚は、なお違うのだろうか。

 中年女性のアレックスが、見せる大人の女の落ち着きと、新卒の若いナタリーの対比が、とても新鮮だった。
「UP IN THE AIR」
 2009年フランス=アメリカ映画 
(2010.03.25)


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