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お話としては上手くできているが、おそらく原作がダメなのだろう。 貧しいインドの不合理な面を、偶然と西洋的な愛でくるんだ映画で、先進国への迎合的な姿勢が感じられる。 サイードが「オリエンタリズム」でいうように、インド的なものも西洋から見た映画であり、インド人すらがインドを西洋人の目で見るのだ。 差別が内在化するのは、ほんとうに恐ろしい。 オスカーを取ったので、一躍有名になったが、あまり気持ちの良い感じではない。
テレビのクイズ番組に、スラム育ちの少年ジャマール(デーヴ・パテル)が出場する。 1問ごとに賞金が上がっていく。 質問は広範囲に及ぶので、いままで全問正解者はいなかった。 スラム出身の18歳の少年が、2000万ルピー獲得しそうで、全問正解を達成しようというのだ。 見なれたテレビ番組だが、出場者がスラム出身だということが物語性を高めている。 スラム出身者には、クイズに答える能力はないはずだという差別意識がまずあって、しかし、スラム出身者が全問正解するという、裏返った差別意識にのった映画である。 しかも、この差別意識が、インド国内向けではなく、西洋諸国を向いているところが座りが悪い。 しかも、ムンバイのスラムも有名である。 スラムに生きる健気な兄弟を設定し、兄サリーム(マドゥル・ミッタル)はヤクザになり弟はクイズ番組にでる。 あと1問というところで、司会者のリークと反対を答えて正解しため、警察に送られてしまう。 ジャマールを拘束する方法も、誘拐まがいで凄まじい。 ここがインドの怖いところである。 クイズ番組への出場者が、司会者の一存で警察に拘束され、電気ショックの拷問にかけれられる。 スラム出身者なら知識がないはずだという前提もスゴイが、スラム出身者を警察に拘束させるのも、いとも簡単なのだ。 しかも、拷問のあとで、翌日の番組には、何でもないように出場させる。 事実なら怖いし、インドならありそうだと思ってしまうところが、なお怖い。 インドの貧困を逆手にとった映画で、先進国の人たちをくすぐってみせる。 その手法に据わりの悪さを感じるのだ。 しかし、もっと大きな設定は、ジャマールが一目惚れしたラティカ(フリーダ・ピント)との恋愛成就だろう。 純愛が成り立ちにくい先進国と違い、インドには2人のあいだには障害がたくさんある。 この誘拐団は、子供を乞食に使って稼いでいた。 より稼ぐように、子供の眼をつぶしたり、残虐な集団だった。 ジャマール兄弟は脱走するが、ラティカは捉えられて芸者として育てられる。 広いムンバイのこと、彼(女)らが再会することはないと思っていると、そこは映画だから感動の再会である。 この映画は、クイズ番組を舞台にして、ジャマールとラティカの恋愛を描いている。 最初にジャマールが正解するのは、天才だから、それともイカサマだから、運命(It is written)だからと、疑問が並ぶ。 そして、最後に、ジャマールとラティカが結ばれたのは、運命だからという。 芸を仕込まれたラティカは、ヤクザの親分の愛人にさせられ、監視付きの生活である。 兄サリームによって、ヤクザの親分の家から脱出できる。 そのあと、サリームは浴槽にお札を並べたなかで、蜂の巣のようになって射殺される。 サリームのおかげで、ラティカはジャマールと結ばれるのだが、この手の恋愛映画は、もう先進国ではないだろう。 途上国への裏返った差別意識に、オスカーの審査員も、かんたんに乗ってしまったように感じる。 露骨な差別映画ではないから、よけいに始末が悪い。 インド人が作った映画なら、納得もしよう。 イギリス人監督ということは、イギリスとインドとの落差をみてしまう。 「シャロウ グレイヴ」や「トレイン スポッティング」では、イギリスに内在視していたように感じたが、この映画ではインドに対するイギリス人の傲慢さを感じるのだ。 ジャマールとラティカが結ばれるのは、いかにもの西洋的な愛の表現で、無前提的に肯定されている。 それに対して、イギリス人から見たインド的な現実が、誇張されて、さりげなく忍び込ませてある。 西洋人が喜びそうな仕掛けがあって、途上国への援助といった西洋正義と、同質のものを感じる。 ダニー・ボイル監督が、イギリス国内の貧困を描いていたときと、やや違うタッチを感じる。 差別の裏返った表現である経済援助は仕方ないとしても、表現は差別とは無縁のところでおこなって欲しい。 2008年アメリカ・イギリス映画 |
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