タクミシネマ          シャロウ グレイヴ

 シャロウ グレイヴ     ダニー・ボイル監督

 去年公開されたときは、ほんの短い間で打ち切られてしまったが、
トレイン スポッティング」があたったので、同じダニー・ボイル監督の前作がもう一度公開された。
この映画が処女作で、「トレインス ポッティング」は二作目である。

 男性二人と女性一人が、広いアパートに共同で住んでいる。
空きがもう一部屋あるので、共同居住者を求めている。
何人もの応募者に面接した結果、小説家と自称する男性に決める。
ところが、彼は入居した当日、スーツケース一杯の現金を残して、麻薬のオヴァードーズで死亡する。
三人は警察に届けることなく、お金を頂くことを計画。
死体を切り刻んで郊外の林に埋める。

 死体遺棄という犯罪と、法外なお金を手に入れたことから、三人の日常がくるいだす。
アレックスと女性は、歪んだ日常のなかで、おそるそおるお金を使い始める。
実行に慎重だった男性は疑心暗鬼になり、常軌を逸して狂気に走る。
そして、スーツケースに入った全部のお金をもって、一人で屋根裏部屋に立てこもってしまう。

 死んだ男はもちろん小説家のなどではない。
仲間二人がお金を奪いにくる。
アレックスと女性は、たちまち拘束されるが、屋根裏に入った強盗の二人は反対に殺される。
三人も殺した彼らは、完全に日常を逸してしまい、仲間割れし互いに傷つけ殺しあって、自ら崩壊していく。

 処女作としては、よくできているかもしれない。
しかし、大金を入手したことからの仲間割れ、三人でしかも男女という組み合わせが生む歪み、警察の捜査にゆれる心理、独り占めしたと思った女性のスーツケースのなかは紙の束だったドンデンがえし等々、話しの展開はほとんど見えている。
古典的とも言えるサスペンス映画は、すでに大概の手法が試されており、新たな展開を見せるのは難しい。
特にサイコスリラーが登場してからは、長閑なサスペンスは時代遅れの感すらある。

 偶然に飛び込んできた大金を、猫ばばすることから発生する犯罪としては、三人のキャラクターの設定が弱い。
この映画は謎解きではなく、観客には初めから事件の全貌がすべて見えている。
だから、三人の主人公の人格崩壊が、克明に展開される必要がある。
ごく普通の人が犯罪に巻き込まれて、いつしか犯人されていくとか、反対に確信犯的な犯人といった緻密な犯罪を作らないと、もはや現実味が薄く、インパクトが弱い。
中途半端な人間設定が、映画の成り立ちをぼやけたものにしている。

 この映画での収穫は、音楽である。
映画のなかで使われていた曲がどれも、上手く画面にとけ込んで、盛り上げており、選曲や編曲が上手い。
1990年イギリス映画。


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