タクミシネマ          リトル ミス サンシャイン

リトル ミス サンシャイン
ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督

 大金をかけた大作も1本の映画なら、少ない予算で撮られた小品も、同じように1本の映画である。
大規模な組織が作ろうが、個人が撮ろうが、まったく同じように、同じ映画として評価される。
厳しいといえば言えるし、幸運だとも言える。

リトル・ミス・サンシャイン [DVD]
公式サイトから

 この映画は、小品である。
主な登場人物は6人だけ。
しかも、古いワーゲンのマイクロ・バスが、ほとんど舞台となっており、セットは最後のコンテスト・シーンだけだろう。
それでいながら、というよりむしろ反対に、小品であるがゆえに現代社会への批判ができている。

 アリゾナに住むフーヴァー家の話。
夢やぶれた夫リチャード(グレッグ・キニア)と妻シェリル(トニ・コレット)の娘オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)が、ミス・リトル・サンシャインに出場することになる。
この家には、兄のドウェーン(ポール・ダノ)、お爺さん(アラン・アーキン)と兄のフランク(スティーヴ・カレル)が、一緒に住んでいる。 
 

 各人が問題を抱えている。
ドウェーンはニーチェに狂っており、無言の修行中。
お爺さんはヘロイン中毒で養老院を追い出された。
ゲイのフランクは恋人を失って、自殺をはかって退院したばかりである。
カルフォルニアで行われるミス・リトル・サンシャイン・コンテストに行くのだが、危なっかしくて誰もおいていくことはできない。

 お金のない一家は、アリゾナからカルフォルニアまで、マイクロ・バスに乗って行くことにする。
映画は一種のロード・ムーヴィーである。
途中でお爺さんは、オーバードーズで死んでしまう。
道中で発生する事件を何とか解決しつつ、やっと会場にたどり着いてみれば、お爺さんに指導されたオリーヴは、ストリップ・ダンスをやってのけた。
ミス・リトル・サンシャイン・コンテストからは非難囂々だったが、彼女は踊り続けた。

 ミス・リトル・サンシャイン・コンテストは俗物の極みで、オリーヴのダンスこそ体制批判だった、というのがオチだった。
上手い役者たちの演技で、それなりのテンポがあって、話はよく判る。
星を一つ付けようかも思ったが、イマイチ引きつけるものがない。

 定型化した通俗性を、これまた定型化した反通俗で批判するのは、安易に過ぎる。
お爺さんの存在が大きく、老人でありながらヘロイン中毒という設定は良いが、どうも彼には行動がともなわない。
チョイ悪老人は、「スペース・カウボーイズ」「ウォルター少年と、夏の休日」などで描かれており、
もっとシャープな老人像が欲しいところである。

 過激な老人とその影響を受けた子供の行動が、現代社会の批判となるという設定は、充分にあり得る話で、今日的で格好の主題だろう。
着眼は良いのだが、登場人物たちがエンディングまで落ち込むばかりで、最後にオリーブのダンスが批判になるのでは、ちょっとインパクトが弱い。
リチャードの出版計画は、破綻するのが見え見えである。
インパクトの弱さは、おそらく各エピソードの先が見えてしまうからだろう。
  2006年アメリカ映画
  (2006.12.27)

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