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ウォルター少年と、夏の休日
ティム・マッキャンリーズ監督

 女性優位が主流だったアメリカ映画界で、子供をネタにマッチョな年寄りが、逆襲を始めた感じである。
スペース・カウボーイズ」という映画は、ジジイが地球を救うというコピーがぴったりだった。
この映画も2人のジジイ=男性老人が、子供の未来を救う映画である。
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公式サイトから

 失敗続きの人生を歩いてきたメイ(キーラ・セジウィック)は、子供のウォルター(ハーレイ・ジョエル・オスメント)が足手まといになってきた。
そこで、遠い親戚の老人に預けて、一旗揚げようとする。
しかし、この老人が一筋縄ではいかない人たちである。

 彼らは40年も故郷を離れており、最近どこからともなく還ってきた。
年寄りのくせに無免許で、古い軽飛行機を乗り回す。
銀行強盗だとか、ギャングだという話もある。
しかも、大金持ちだという噂である。
メイは厄介になった子供を、老人たちに預けると同時に、あわよくば遺産を期待していた。


 ぶっきらぼうのハブ(ロバート・デュヴァル)と如才ないガース(マイケル・ケイン)。
少年にとって、老人はまったくの異人種である。
しかも、母親に捨てられてしまった。
孤独のうちに沈むかと思いきや、意外なことにウォルター少年は老人たちと仲良くなる。
ガースの話す奇想天外な物語を媒介にして、2人の老人と少年は田舎の生活を満喫した。

 1960年代のはじめ、テキサス中部での話し。
この家には、電話もテレビもない。
そこでガースは、次のような話をした。
ハブは20人力の男で、ガースは彼に連れられて、ヨーロッパに渡った。
しかし、そこでフランス軍の誘拐にあって、外人部隊へ入れられてしまう。
以降、40年に渡って、彼らはアラブ人と闘った。
ハブはアラブの美人と結婚するが、出産で母子ともに死んでしまう。
そんな中、部族長から大金をせしめて、アメリカに帰ってきたというのだ。

 男が男であった時代。
屈強の腕力を頼りに、馬に乗って戦場を駆けめぐり、多くの武勇伝を残す。
当時の武器は刀であり、頼りにするのは自分の肉体である。
ハブは逞しく、実直な男だった。
アラブ美人は、ハブが外国人であると判っていても、彼に惚れ込んでしまう。
当時は、ハブのような男がもてたのである。
こんな話は今では通用しない。
今の戦いはコンピュータを使い、屈強な肉体は不要である。


 古き良き時代の栄光を、控えめに話すガース。
今見ても、この老人たちはかっこいい。
世の中が単純で、善悪がはっきりしている。
人間の生き方も、きわめて単純である。
老人の生き方に、いつしかウォルター少年も惹かれていく。
少年と老人は、社会に組み込まれていない存在だから、両者の心理は実にうまくあう。

 この映画の原題は、「Secondhand Lions」である。
既に盛りを過ぎて、人生の終末にさしかかり、どこからも用済みになった老人。
ハブは、自分のことを何度もユーズレスと自嘲する。
夜中には夢遊病のごとくふらつく。
しかし、まだ馬力はある。
中古になったとはいえ、この老人たちはライオンだった。
その気高い気概が良く伝わってくる。
映画の中でも、老人たちがライオンを飼うが、これが年老いており、まったく元気がない。
にもかかわらず、ウォルター少年を助けて事切れる。

 肉体が本気でぶつかり合った時代。
逞しい男が花形だった。
テキサスの田舎では、いまだにマッチョなセンスが強いのだろう。
農業が主流の地域では、今でも肉体賛美の風潮は強い。
逞しい肉体は美しい。
そして、逞しい肉体に寄り添う美女はなお美しい。
頭脳は肉体の上にある以上、肉体賛美が消滅することはない。
スクリーンに美女が登場したのは、もはや昔日の話である。


 貧弱な肉体でも、充分にやっていける情報社会。
マッチョはもう流行らない。
ウエストがくびれた洋服も、過去のものだ。
しかし、郷愁は自然に基盤を置くだけに、根強いものがある。
屈強な腕力はますます無化されていくが、屈強な肉体への憧れは残る。
そして、脱性化がすすむが、男女の境を超えることはできない。
この映画の主題は、マッチョが夢見る泡沫の一瞬である。

 世の中で現役を張っていくためには、社会の流れに逆らうことはできない。
一人でマッチョをやっても、相手にしてもらえずに、仕事に差し支える。
となれば生きていくためには、脱性化した社会に自分を合わせていくしかない。
ジジイ予備軍として思うに、この映画は主人公がジジイだから成り立つ話である。
   2003年アメリカ映画
(2004.07.23)

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