タクミシネマ        007  カジノ ロワイヤル

007  カジノ ロワイヤル 
   マーティン・キャンベル監督

 007シリーズが始まる前の話である。
ジェームス・ボンドがどのようにして007になったのか、それがネタといえば言えるが、
それは最後の最後に明かされる。
単純に一本の娯楽映画としてみても、そこそこにできており、何よりも知的な香りがする。

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 公開前には、悪評が高かったダニエル・クレイグだが、
彼をキャスティングしたのは成功といえるだろう。
彼は若いとも言えず、年寄りでもない年齢で、こうした映画の主役をはるには、ちょうど良い年齢である。
しかも、鍛えられた身体は、年齢相応以上に見事であり、上背もあるのでタキシード姿が実にカッコイイ。
台詞がありながら、無口にも感じさせているのは、エージェントには最適である。

 「ミッション インポッシブル」でのトム・クルーズもよく走るが、
この映画での冒頭では、ダニエル・クレイグが走りづめだった。
ともに若くはない役者さんだが、体力が必要なのはこうした映画の定石だろう。
しかし、冒頭の追跡シーンは、あれだけのカットを割きながら、
本題の話には無関係だから、無駄だった感じがする。
高いところでのダイヴィングなど、こんなこともできますの見本のようで、感動が薄い。
このシーンは半分に詰めても良い。

 トム・クルーズはどう見ても、知的な感じはしない。
が、ダニエル・クレイグからは人間の内面性の複雑さを感じさせる。
007になってしまえば、エージェントに徹してしまうので、人間性が単純になるのだろう。
が、それだけではなく彼の演技が、屈折した心理を表現していたと言うべきだろう。
得な俳優である。

 この手の映画の常として、まず小さな事件をおこして、
それを上手く処理して、本題へと繋げる手法がとられる。
この映画もそれをたくさん使っており、冒頭の追跡シーンもそうだったし、
美人とのラブ・アフェアーもそうだ。
悪役に接近するために、悪役の奥さんソランジュ(カテリーナ・ムリーノ)を誘惑して、ラブ・アフェアーへと誘う。

 ボンドとソランジュの間の取り方が実に良い。
誘惑する方も、される方も、なかなかに人生を楽しんでおり、それがよく伝わってくる。
なぜ私を誘惑するのか、と聞かれて、人妻だからと答えるあたりは、ほんとうに唸らされる間合いである。
この女性が簡単に殺されてしまうのは、ちょっと残念だった。

 今回は、ボンドの同僚としてヴェスパー(エヴァ・グリーン)なる女性が登場する。
今までのボンド・ガールとは、ちょっと違うタイプの女性だが、痛々しくて見るのが辛い。
今までのボンド・ガールたちは、頭脳よりも色気が勝っていたが、今度は色気に頭脳をも加えた。
ボンドの目付役といった役柄だが、ボンドと一緒にアクションに巻き込まれて行くには、線が細すぎる。


 男女平等の影響を受けて、アクションの世界にも女優さんが登場している。
それは良い傾向だと思うが、男性エージェントが一緒に仕事をするためには、
女性エージェントにも男性と同じ能力が必要だろう。
アクション能力が劣れば、男性は危なくて女性とはチームは組めない。
そう考えると、アンジェリーナ・ジョリーとならパートナーになれるが、
エヴァ・グリーンがパートナーでは、命が幾つあっても足りないだろう。

 男女は平等であるべきだが、肉体がものをいう世界では、女性の非力さが目立ってしまう。
映画の中で美人も売りものにしているだけに、
アクションのできないエヴァ・グリーンでは、話に無理がめだってしまう。
何よりも彼女とコンビを組んだボンドが可哀想だった。
しかも、彼女と恋に堕ちていき、その彼女に裏切られたのが、007になる切っかけだったと言うに至っては、女性蔑視だと言われても仕方ないだろう。

 仕事にプライバシーを持ちこんだツケが、パートナーの裏切りになる。
このあたりは平凡に過ぎる。
2人が接近するのは一種の職場恋愛ともいえ、
人妻しか口説かなかったボンドが、信条を変更するには説得力に欠ける。
仕事のできることが女性に対する最高の評価である今、
エヴァ・グリーンは時代の最先端をいくタイプの女性ではない。
エヴァ・グリーンはヨーロッパ人好みかも知れないが、知性と体力を兼ね備えた女性は存在するのだから、やはりミス・キャストだろう。

 映画の前半は、アクションが多かったが、
中盤からカジノでのポーカー・シーンが多くなり、心理描写が多くなってくる。
動きの少ないなかで、騙し・騙される展開は、映像化するのが難しい。
その点では、この映画も成功しているとは言えない。
最初にル・シッフル(マッツ・ミケルセン)が勝つシーンも見えていたし、
話の展開に意外性がまったくない。
だいたいイギリス政府のお金を、ボンドのポーカーにかけるなんて、リスキーに過ぎる。

 このシリーズの魅力の一つに、登場する車がある。
今回も魅力的な新車が何台か登場していたが、
新車以上に美しかったのは、64年式のアストンマーチンだった。
空力デザインが導入される前の60年代の車は、
美しい姿を創るためにデザインされており、高級車は実に上品で美しい。
それを映画製作者たちも、知って楽しんでいる。

 「ボーン アイデンティティ」のシリーズが、小技を効かせているのに対して、
007のシリーズは大業で勝負といったところだろうか。
見て損はない娯楽映画に仕上がっている。
   2006年アメリカ映画  (2006.12.08)

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