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007シリーズが始まる前の話である。 ジェームス・ボンドがどのようにして007になったのか、それがネタといえば言えるが、 それは最後の最後に明かされる。 単純に一本の娯楽映画としてみても、そこそこにできており、何よりも知的な香りがする。
公開前には、悪評が高かったダニエル・クレイグだが、 彼をキャスティングしたのは成功といえるだろう。 彼は若いとも言えず、年寄りでもない年齢で、こうした映画の主役をはるには、ちょうど良い年齢である。 しかも、鍛えられた身体は、年齢相応以上に見事であり、上背もあるのでタキシード姿が実にカッコイイ。 台詞がありながら、無口にも感じさせているのは、エージェントには最適である。 「ミッション インポッシブル」でのトム・クルーズもよく走るが、 この映画での冒頭では、ダニエル・クレイグが走りづめだった。 ともに若くはない役者さんだが、体力が必要なのはこうした映画の定石だろう。 しかし、冒頭の追跡シーンは、あれだけのカットを割きながら、 本題の話には無関係だから、無駄だった感じがする。 高いところでのダイヴィングなど、こんなこともできますの見本のようで、感動が薄い。 このシーンは半分に詰めても良い。 が、ダニエル・クレイグからは人間の内面性の複雑さを感じさせる。 007になってしまえば、エージェントに徹してしまうので、人間性が単純になるのだろう。 が、それだけではなく彼の演技が、屈折した心理を表現していたと言うべきだろう。 得な俳優である。 この手の映画の常として、まず小さな事件をおこして、 それを上手く処理して、本題へと繋げる手法がとられる。 この映画もそれをたくさん使っており、冒頭の追跡シーンもそうだったし、 美人とのラブ・アフェアーもそうだ。 悪役に接近するために、悪役の奥さんソランジュ(カテリーナ・ムリーノ)を誘惑して、ラブ・アフェアーへと誘う。 ボンドとソランジュの間の取り方が実に良い。 誘惑する方も、される方も、なかなかに人生を楽しんでおり、それがよく伝わってくる。 なぜ私を誘惑するのか、と聞かれて、人妻だからと答えるあたりは、ほんとうに唸らされる間合いである。 この女性が簡単に殺されてしまうのは、ちょっと残念だった。 今回は、ボンドの同僚としてヴェスパー(エヴァ・グリーン)なる女性が登場する。 今までのボンド・ガールとは、ちょっと違うタイプの女性だが、痛々しくて見るのが辛い。 今までのボンド・ガールたちは、頭脳よりも色気が勝っていたが、今度は色気に頭脳をも加えた。 ボンドの目付役といった役柄だが、ボンドと一緒にアクションに巻き込まれて行くには、線が細すぎる。 それは良い傾向だと思うが、男性エージェントが一緒に仕事をするためには、 女性エージェントにも男性と同じ能力が必要だろう。 アクション能力が劣れば、男性は危なくて女性とはチームは組めない。 そう考えると、アンジェリーナ・ジョリーとならパートナーになれるが、 エヴァ・グリーンがパートナーでは、命が幾つあっても足りないだろう。 男女は平等であるべきだが、肉体がものをいう世界では、女性の非力さが目立ってしまう。 映画の中で美人も売りものにしているだけに、 アクションのできないエヴァ・グリーンでは、話に無理がめだってしまう。 何よりも彼女とコンビを組んだボンドが可哀想だった。 しかも、彼女と恋に堕ちていき、その彼女に裏切られたのが、007になる切っかけだったと言うに至っては、女性蔑視だと言われても仕方ないだろう。 仕事にプライバシーを持ちこんだツケが、パートナーの裏切りになる。 このあたりは平凡に過ぎる。 2人が接近するのは一種の職場恋愛ともいえ、 人妻しか口説かなかったボンドが、信条を変更するには説得力に欠ける。 仕事のできることが女性に対する最高の評価である今、 エヴァ・グリーンは時代の最先端をいくタイプの女性ではない。 エヴァ・グリーンはヨーロッパ人好みかも知れないが、知性と体力を兼ね備えた女性は存在するのだから、やはりミス・キャストだろう。 中盤からカジノでのポーカー・シーンが多くなり、心理描写が多くなってくる。 動きの少ないなかで、騙し・騙される展開は、映像化するのが難しい。 その点では、この映画も成功しているとは言えない。 最初にル・シッフル(マッツ・ミケルセン)が勝つシーンも見えていたし、 話の展開に意外性がまったくない。 だいたいイギリス政府のお金を、ボンドのポーカーにかけるなんて、リスキーに過ぎる。 このシリーズの魅力の一つに、登場する車がある。 今回も魅力的な新車が何台か登場していたが、 新車以上に美しかったのは、64年式のアストンマーチンだった。 空力デザインが導入される前の60年代の車は、 美しい姿を創るためにデザインされており、高級車は実に上品で美しい。 それを映画製作者たちも、知って楽しんでいる。 「ボーン アイデンティティ」のシリーズが、小技を効かせているのに対して、 007のシリーズは大業で勝負といったところだろうか。 見て損はない娯楽映画に仕上がっている。 2006年アメリカ映画 (2006.12.08) |
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