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タバコに関して禁煙・喫煙を扱っているが、主題はタバコとは関係ない。 自由、自主独立といったアメリカの精神を、あらためて問い直している。 それがブラックな風刺となって、なかなかに鋭い。 人を食ったタイトルで、アメリカでしか創れない映画である。 星こそ付けないが、充分に楽しめる。
世は上げて禁煙ブーム。 禁酒法の歴史のあるアメリカは、タバコにことのほか厳しい。 タバコにドクロマークを付けようといった、法案さえ提出されそうだった。 そんな反タバコの中、タバコ会社は喫煙のキャンペーンを張っていた。 そのロビイストが、バツイチで子供ありのニック・ネイラー(アーロン・エッカート)だった。 タバコ会社の情報機関である「たばこ研究アカデミー」の広報部長として、彼はタバコの売上げ低下を、止めるべく東奔西走する。 タバコ会社を告発している人を懐柔し、公聴会に出席してタバコを擁護する。 この映画では、タバコを吸うシーンは一度も出てこない。 ニック自身もタバコを吸わない。 「コーヒー&シガレット」では、タバコが主題だったが、この映画はもっと哲学的である。 事実、タバコは有害である。 しかし、あまりにもヒステリックなキャンペーンは、思考の公平さを欠く。 そこでニックは、怪しげな理屈をこね回して、タバコを擁護しようとする。 いわく、飛行機は何人も人を殺してきたが、悪者にはならない。 車だって同じだ。 チーズはコレステロールの元凶だが、タバコのように悪し様には言われない。 なぜだと言うが、有害が危険に置きかわっている。 タバコは健康に悪いかも知れないが、どんなものだって危険性はある。 問題は、危険性を知って、自分の責任で対処することだ。 彼はそう訴える。 しかし、タバコ、アルコールと拳銃は、死の商人の3大グループと、見なされている。 アルコール界代表はポリー(マリア・ベロ)、銃器界の代表はボビー(デヴィッド・コークナー)、それにタバコ界のニック。 彼等は毎週集まって、情報交換している。 ここでの会話が、なかなかに良い。 そして、ニックに体当たり取材をかけてくるのは、胸の豊かなヘザー(ケイト・ホームズ)という若い女性。 たちまちニックは陥落し、ベッドへ直行。 しかし、オフレコのはずのピロー・トークが、全部記事にされてしまった。 そのため、彼はすべてを失ってしまう。 しかし、息子のジョーイ(キャメロン・ブライト)が、父親は情報操作の王様だと言って、尊敬のまなざしを向けた。 これで、ニックは元気になって、反撃に出る。 タバコは健康に有害である。 しかし、そんなことは誰でも知っている。 この映画は、タバコという害悪をあげて、 自由と自己責任つまり民主主義の根本を、アメリカ流の論争術をまじえて描く。 この映画が描く限りでは、まったくそのとおりだ。 タバコが悪いとなると、パッケージにドクロを貼り付けろと言うが、問題はそこにあるのではない、と情報操作する。 嘘はいけないし、真実を伝えるべきだ。 すべてが経済的な利益の対象になって現在、通り一遍のキャンペーンは危険ですらある。 地球温暖化というが、ほんとうに人間たちの経済活動が、地球を温暖化させているのか。 もしそうだとしても、温暖化に反対するのは、それに票が絡み、利益がついてくるからではないか。 真実というのも、何だか根拠が怪しい。 そんな姿勢で、批判的な目をいっぱいに開いて、シニカルなシーン満載で、映画は進んでいく。 タバコを扱いながら、最後になってみれば、 言いたかったのは禁煙ではなく、自由と自己決定が主題だったとわかる。 この映画は、特異な自己の意見を持つことを好まず、 主張をきちんとする伝統のない我が国では、残念ながら作ることができないだろう。 タバコをめぐる社会的な現象を横軸に、父子関係を縦軸にして、物語が組み立てられており、 最近のアメリカ映画の流れに乗った作りだった。 自由とは何かが、何度も何度も問い直されるアメリカ。 こうした視点を打ちだせるのは、若い監督だろうと思うが、自由をあつかって羨ましくもあった。 2006年アメリカ映画 (2006.10.31) |
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