タクミシネマ        レイヤー・ケーキ

レイヤー・ケーキ    マシュー・ヴォーン監督

 イギリスから来た、スタイリッシュなギャング映画である。
同じような作風の「ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や、「スナッチ」という映画があった。
何となく似ているな、と思っていたら、この2本の映画のプロデューサーが、監督になって撮ってしまったのだという。
どうりで、といった感じである。

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 主人公XXXXをダニエル・クレイグが演じている。
彼がジェームス・ボンド役に決まった今では、この映画に出演しているのが、ちょっと不思議な感じである。
でも、なかなかに格好良く、今度の「007」は良いかも知れない、と思わせた。
彼の鍛えられた身体が見事であり、俊敏な身のこなしが良い。

 映画の主人公は、匿名ということになっているので、主人公には名前がない。
匿名が現代性の象徴だろうか。XXXXは名もなき麻薬のディーラーだった。
しかし、彼は知的でスマートな犯罪者で、古いギャングのように残酷なことは一切しなかった。
欲張りすぎるな、目立つな、少人数で行動せよなど、自分のポリシーを保ち、ドジはしなかった。
成功している今のうちにと、そろそろ引退を考えていた。

 彼への出資者であるジミー(ケネス・クラナム)から、失踪者チャーリーの捜索を依頼された。
ここから、彼のシナリオが狂いだす。
チャーリーはジミーの友人のエディ(マイケル・ガンボン)の娘だったが、麻薬から抜け出すために、田舎の更生施設に入っていた。
その彼女がジャンキーの恋人と一緒に、ロンドンへと脱走してきた。
それに麻薬を盗んだデューク(ジェイミー・フォアマン)がからんで、追いつ追われつの話が始まる。

 話はそれだけなのだが、ギャング映画でありながら、主題がしっかりとある。
悪事を働くにも、人それぞれに器量があり、楽しては儲けることができない。
悪事の世界も、まるでレイヤーケーキのように、人間が層になっているというのだ。
そして、悪事の世界も、徹底したビジネスの論理が貫徹しており、おいしい仕事は甘くないという。
ビジネス感覚の貫徹が、我が国のやくざ映画とは少し違う。

 筆者も若い頃、東映のやくざ映画をたくさん見た。
やくざ映画では、義理と正義のあいだに振れる組員の心情を描いていた。
義理こそ、やくざ映画を支えるモチーフだった。
しかし、この映画に義理はない。
あるのはビジネス感覚だけだ。
結果として人が殺されるのは、やくざ映画もギャング映画も同じであるが、義理に悩むシーンは皆無で、それは見事なほどである。


 今まで彼は上手くやり通して、ギャングの世界から引退できた、と思った。
しかし、そうはいかなかった。恋人のタミー(シエナ・ミラー)とならんで、建物を出たとたん、チンピラに殺されてしまう。
この映画は、我が国の実録やくざ映画に近いのだろうか。
暴力がむき出しで描かれる。
多くのギャング映画でも、極め付きの暴力シーンは、それとなく描くものだが、この映画はしつこく描いている。

 XXXXの仲間のモーティ(ジョージ・ハリス)が、今は落ちぶれたかつての仲間を、徹底的に打ちのめすシーンなど、ちょっとやりすぎだろうと思わせる。
あそこまで殴り続けなくても、良いように思うが、しかし、物語の上では、あそこまでやる必然性がある、とも感じる。
ベッドシーンはすでに市民権を得ているが、暴力シーンはむずかしい。

 話を広げるのは、前半で終わりにして、中盤からは結末に向かって、纏め込んでこなけれならない。
にもかかわらず、この映画は後半になっても、話を広げている。
麻薬の盗難とチャーリーの捜索と、話が広がりすぎて、筋を追うのがちょっと忙しい。
そのため広がりすぎた話を、まとめ込んでくる後半になると、カットとカットの繋がりが遠くなってしまっている。

 前半では、話のネタをばらまく必要があるので、カットとカットの繋がりがなくても、観客はついていける。
しかし、後半は纏め時期のはずで、ここで話を広げ続けると、観客は画面に熱中できなくなる。
だから1時間45分と、決して長い映画ではないにも関わらず、後半ではやや退屈感すら感じた。

 画面はスタイリッシュではあるが、物語のテンポが悪いと感じたのは、話の広げ方と纏め方を間違えたせいだろう。
お金のかかったB級映画といったところだろうか。
   2004年イギリス映画
 (2006.7.5)

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