タクミシネマ            スナッチ

スナッチ        ガイ・リッチー監督

 前作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」があたったので、スポンサーが付いたのだろう。
今回はグンとお金がかった仕上がりになっている。
しかし、中身はまったく同じで、同じ映画を作り直した感じである。
前作の批評がそのまま当てはまる感じすらする。
スナッチ [DVD]
 
劇場パンフレットから

 86カラットのダイヤモンドを、フランキー(ベネチオ・デル・トロ)が盗み出すことから、映画は始まる。
その後、そのダイヤをめぐって、多くの悪人たちが入り乱れての争奪戦を演じる。
それに闇の賭けボクシングとジプシーたちが絡んで、殺し殺される展開へと続くが、何となく憎めない悪人どもである。
バイオレンス・コメディというジャンルがあるかどうか判らないが、どちらかといえばコメディというタッチの映画である。
しかも、この映画の笑いは、ややひきつりながらのものである。

 主要な人物が何人も登場する。
一種の群像劇といっていい。
そのなかで、主人公といっても良いだろう中心になるのは、ターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)とトミー(スティーブン・グレアム)というチンピラ・ヤクザである。
彼らがヤクザの大物ブリック(アラン・フォード)とからみ、ダイヤのほうはフランキーからロシア人のボリス(ラデ・シェルベッジャ)へ、そしてアビー(デニス・ファリーナ)へと渡り、二つの話が後半では一つになっていく。

この監督は、自分で脚本も書いており、たくさんの話を終盤で上手くまとめあげる。
前作でもそうだったが、大勢の人物を登場させて、大きくひろげた物語をまとめあげる力量は、なかなかたいしたものである。

 ロンドンの下町に住むヤクザたち、チンピラから大物まで、欲の皮が突っ張った連中が走る。
フランキーは盗んだ86カラットのダイヤを、ニューヨークのアビーへ届けるのだが、そのまえに小粒のダイヤを換金しようとする。
そのとき、ボリスを紹介され、大好きな賭事にはめられてしまう。
ボリスはフランキーからダイヤを盗もうと、質屋のソル(レニー・ジェイムズ)を雇う。
賭事とは非合法のボクシングで、親分のブリックはターキッシュとトミーに、選手をだすように命令する。
彼らはジプシーのミッキー(ブラッド・ピット)をひっぱりだす。
ミッキーには負けるように八百長を仕組んでいたが、ミッキーは勝ってしまい、ブリックは怒り心頭である。
再度の試合でもミッキーは勝ってしまうが、今度は仲間のジプシーが狙われるだろうと予測して、反対にヤクザども皆殺しにしてしまう。

 一方ダイヤを追いかけているアビーは、ボリスとソルを殺すが、結局ダイヤは犬が食べてしまい、手に入らない。
ボクシングの試合が終わって、ヤクザが殺されてみると、すでにジプシーたちは逃げたあとである。
警察に職務質問されて、ターキッシュとトミーが茫然としているところで映画は終わるが、物語の筋はきわめて錯綜している。


 この映画は、ロンドンの下町という設定なので、英語の訛りが凄まじい。
しかも、ジプシーたちはアイリッシュという設定だから、彼等の喋る英語ときたら、イギリス人たちにも判らない。
しかめっ面したイギリスの悪人どもが、キンキンアクセントのイギリス英語で、コミカルに物語をすすめるのはユーモラスである。
画面も、俯瞰ありローアングルあり、ストップモーションありと、さまざまなテクニック使ってみせる。
それなりにスタイリッシュで、良くできていると思う。
しかし、主題が何もなく、ただ話をつぎつぎに追っているだけである。
前作でもそうだったが、タランティーノの影響か、センスの良さで突っ走っている感じで、この監督はこの先どうなるのだろう、と余計な心配をさせる。

 大勢の人物をまとめあげる力や、多岐に渡る物語を編み上げる力量が、この監督にはある。
しかし、主題がないということは、とても危険なことだ。
最初の一作や二作では、時代の空気を体現するだけで作品をつくるとができる。
それが三作目四作目となっていくと、同じことをやるわけにはいかなくなるので、どうしても限界にあたってしまう。
この二作目の映画でも、はやそれは感じられる。
タランティーノの登場はセンセーショナルだったが、「ジャッキー・ブラウン」で早くもつぶれてしまった。
彼も同じように主題を持たない監督だったが、主題を持たないと、表現者として長続きしない。


 表現とは、自分の追いかける主題を、さまざまな方向から見なおす作業であり、長い年月をかけて主題の密度を上げることである。
それに人は、それほどたくさんの主題をかかえるわけにはいかず、自分固有の主題以外にはもてない。
主題をもたないと、やがて表現のストックが底をつき、描けなくなってしまう。
主題さえ良ければそれでいいかというと、もちろんそれだけでは不充分で、主題をどう見せるかも重要である。
見せ方だけからすれば、この映画は良くできている。
だから、星一つを付けるが、これだけ才能のある監督なのに、主題がないのはもったいない感じがする。

 表現とはまさに神に与えられたギフトであり、一度そのチャンネルにはいると、ずっとそのレールを走らなければならないものである。
主題がないといっても、それがこの監督のスタイルである。
他の人に言われたり、自分で主題を持とうと努力しても、なかなか思うようにはならない。
だから、いい主題を持った人は幸せなのである。

 2000年、アメリカ資本のイギリス映画

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