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19世紀のイギリスが舞台になっている。 凝り性な監督のことだから、当時の時代考証を期待した。 しかし、有名な原作だから、映画の展開には期待していかなかった。 メイリー婦人こそ登場しないが、映画はおおむね原作に従って作られている。
路頭に迷ったオリバー(バーニー・クラーク)は、産まれた救貧院にもどって、貧しい生活を続ける。 当時は貧乏人に人権など認められておらず、貧富の格差が大きかったのだろう。 棺桶屋に引き取られたものの、あまりの辛さに、彼はロンドンへ逃れようとする。 都会は人を飲み込む墓場だったが、それでも都会は人に希望を与えた。 オリバーはロンドンへとたどり着くが、何のツテもない彼には行き先はない。 空腹で道ばたに寝ているとき、子供の盗賊仲間ドジャー(ハリー・イーデン)に声をかけられる。 盗賊仲間のおかげで、彼は何とか食いつなぐことができた。 その後、紆余曲折があって、彼はお金持ちの男に歓迎されて、幸福な人生を歩み出すところで映画は終わる。 現在のアジアは、アフリカほどではないが、まだ貧しい。 人身売買やスラムがある。 それに対してイギリスは、先進国の重要な一翼をしめ、 今ではスラムなどないだろう。 かつてのイーストロンドンのような極端な貧困は、いまでは想像もつかない。 しかし、近代の入り口では、どこの国でも貧困が支配した。 「東京の下層社会」などで明らかなように、もちろん我が国も例外ではない。 先進国であるがゆえに、イギリスは一番早く、貧富の格差に見舞われた。 その当時の惨状は、マルクスの著作などで明らかだろう。 当時は工業社会の勃興期でもあったので、農村などと違い、工場労働者が大量に必要だった。 貧者を放置すれば、労働力が失われていく。 イギリスは社会福祉をうち立てることによって、労働者を大量に確保せざるを得なかった。 映画は、そうした当時の社会背景には、まったく触れていない。 盗賊仲間の親分であるフェイギン(ベン・キングスレー)は、 善良な悪人のごとく描かれており、おとぎ話のような仕上げになっている。 原作者ディッケンズの意図は、あきらかに社会批判だったから、 それを無視したこの監督の真意がどこにあるのか掴みかねる。 個人主義に基づく自由放任主義批判が、この小説の主題だから、それを無視しているのは何か意図があるのだろう。 映画ではユダヤ人の話は出てこない。 そう考えると、ユダヤ人は徹底した個人主義で、お金に執着してきたから、 この監督は放任主義に賛成ななのかも知れない。 社会福祉はこの監督には無縁で、ディッケンズの名前だけが必要だったのだろうか。 この監督に対しては、前作「戦場のピアニスト」のイメージがあり、当サイトは彼をユダヤ人の広告塔と見なしてしまう。 時代背景を考えないと、この映画は主題が不明なのだ。 それとも、美形の少年をオリバーにキャスティングすることによって、 美男は幸福をつかむといった主題だったのだろうか。 盗賊仲間の子供は何人も登場するが、 彼が一番の美形であり、金持ちの男に好かれる要素を持っている。 そんな主題と言うことはないだろう。原作では成人男性の庇護を受けるのではなく、 メイリー夫人という女性に気に入られるのだ。 少年愛が潜ませてあったのだろうか。 ユダヤ人批判を抜き落としたときに、この原作の意図がどう変わるのか。 放任主義を批判することなく、つまり当時の資本主義の倫理を無視してしまうと、 原作の意図は消えて、監督の意図だけが登場する。 そう考えて見直してみると、有名な文学作品から、ユダヤ人批判を抜き去ることが、この映画の主題だと思えてくる。 前作に続きユダヤ人の広告塔だったと考えると、 ユダヤ人批判を封じ込めることが、この映画の主題だったと思えてくる。 原作では盗賊仲間の首領は、極悪なユダヤ人として描かれているが、 それを善良な稚気ある悪人と描くことによって、ユダヤ人は悪人ではないと、キャンペーンを張っているのかも知れない。 可愛い男の子が不幸な目にあったが、 最後には幸福になるでは、主題が何もないと言っても良い。 この映画がユダヤ人の広告だとすれば、映画の作りも主題も、実に自然に納得できる。 むしろ、それ以外には理解のしようがない、と言っても良いくらいである。 この文章を書いているうちに、ますますその確信が深まってきた。 2005年仏.英.チェコ映画 (2006.2.08) |
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