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天才指揮者といわれたダニエル(ミカエル・ニュクビスト)だが、体を壊してしまい、故郷へと帰っていく。 小さな時にイジメにあった故郷は、決していい思い出はなかったが、なぜだか隠居生活の場所に選んだのだ。 しかし、長い年月が経ているので、音楽家の有名人としては知っていても、誰も彼の過去を知る人はいなかった。
教会の聖歌隊の指導を頼まれたことから、じょじょに音楽にのめり込む。 素人相手だったので、気は楽だったが、合唱隊の音楽を愛する気は本職以上だった。 何よりも歌うことが、音楽を体験するが楽しまれていた。 ここまで書けば、この映画がどういった展開をたどるかは、簡単に想像がつく。 「ブラス」「スクール オブ ロック」「スウィング ガールズ」といった映画が、すぐ思いつく。 想像に違わず、合唱隊をめぐる出世物語である。 何度も何度も、手を変え品を変えて、同じ主題の映画が作られるのは、この主題や展開が一種の定番であり、誰でも簡単に陶酔できるからだろう。 そのため、この映画も良く酔えるが、じつにダサイ仕上がりである。 そんな人間が、田舎に入ったらどうなるか。 これが上記の映画とは違った主題であろうか。 この映画は、1960年代後半に時代設定をして、自由を体現した人間と、田舎の秩序との衝突を描いていく。 現代では、家庭内暴力は簡単に逮捕されるだろうし、教会の力もこの映画ほどではない。 ヒッピームーブメントによって自由が謳われ、女性も障害者も自立した。 ヒッピー運動以前のスウェーデン社会が、映画の舞台である。 1960年代は、まだ古い秩序があった。 教会は権威があったし、男性は女性の上にいた。 そうしたなか、人々は自立に目覚め、セックスの自由を獲得し、人間解放を目指して動き始めていた。 それはスウェーデンの田舎でも同じだった。 自由を求めていた村人のなかに、自由人である音楽家が入ったのである。 ダニエルが自由への触媒となって、村の秩序を壊し始めた。 しかし、本物の音楽家であること自体が、自由を求めることであり、村の権威と衝突する。 村人たちは、ただ歌う自由を求めていただけだが、自由は保守的な権威とは両立しない。 最初のうちは歓迎していた神父も、自己の権威の低下を恐れて、ダニエルを疎んじ始める。 社会が動き出しているときには、個人の力ではそれを止めることはできない。 神父は合唱隊に粉砕されてしまう。 合唱隊のメンバーには、女性が多い。 これも当時の背景に忠実だし、障害者を健常者並みに扱おうとするのも、いかにも北欧のノーマライゼーションである。 ダニエルの相手になるレナ(フリーダ・ハルグレン)は、男女関係に奔放だったし、古い秩序から自由だった。 彼女は自分の価値観に素直に生き、周りの目は気にしなかった。 この映画は、1960年代の熱き雰囲気を良く伝えている。 小国スウェーデンのブキッチョな映画で、露出が不適正で、カラーの発色の悪い場面がたくさんある。 カメラアングルも平凡だし、とりたててこれと言った長所のない映画だが、自由を求める人々の心は伝わってきた。 おそらく監督は、オールド・リベラリストなのだろう。 古き良き時代の変革運動を、思い出させてくれた。 色白なファニーフェイスで、体当たり演技に胸のすく思いだったが、ウエストが全くない女優さんというのも珍しい。 合唱隊のメンバーは、俳優さんたちだったろうが、後になって増えてきた合唱隊員は、プロの歌手だったように感じた。 西洋人たちが、西洋音楽を楽しむ様は、本当に国民的な規模である。 老いも若きも、男も女も音楽に、いかにも楽しそうに身をゆだねる。 そして、音楽が官能を刺激する。 我が国では、西洋音楽が教養としてあるから、音楽を庶民の誰でもが楽しむといったことはない。 我が国の国民的音楽は、民謡だろうか。 それとも演歌だろうか。 すべて違うだろう。 国民的音楽がないのが、ちょっと寂しい。 2004年スウェーデン映画 (2006.1.06) |
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