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スウィング ガールズ   矢口史靖監督

 前作「ウォーター・ボーイズ」は女なすものを、男のボクもしてみようだった。
今度は男なすものを、女のボクもしてみようと言った趣向であろうか。
この監督の着眼点は、何時もなかなかに鋭い。
ひみつの花園」以来、感服することしきりである。
しかも、一貫してコミックを追求している姿勢にも、好感が持ている。
しかし残念ながら、今回は失敗作と言わざるを得ない。
あえて、なぜ失敗作かを論じることにする。
スウィングガールズ [DVD]
劇場パンフレットから

 東北地方のある高校での話し。
ブラスバンド部員が食中毒になったことから、ピンチヒッターとなった女子高校生が、音楽の楽しさに憑かれてしまう。
ブラバンならぬビッグバンドジャズに、女子高校生がはまってしまい、東北地方の公式音楽祭に出場するまでを描いている。
物語の展開は、「スクール オブ ロック」と同様である。
途中で出場がおシャカになりかけるが、そこは出場できて演奏してみれば、逆転満塁ホームランと定番である。


 今回の失敗の根本的な原因は2つある。
第1は、脚本が充分に練られていないこと。
第2は、監督が主演した女優たちに演技が付けられないことである。
映画というのは、観客の予測通りに進んではつまらないのであって、予測を常に裏切って欲しい。
これが勝手な観客の希望である。
それにはまず脚本の充実が不可欠であろう。
充分に検討して書き込まれた脚本こそ、映画のおもしろさを支える第一歩である。

 この監督には、今後も秀作を期待するがゆえに、今回の総批判をしてみたい。
もし、監督が本評論を読んでいれば、怒り心頭かも知れないが、おそらく頷ける部分が相当にあると思う。
ではまず、脚本を別の人に任せたほうが良い。
監督の着想は素晴らしいが、着想を消化する過程が不充分である。

 ロケハンは監督の仕事だとしても、脚本家も協力した方が断然上手くいく。
あの黒澤明監督にしても、脚本家をつかっている。
脚本家を使うことは、自分の思考をもう一度見直すことが出来る。
つまり自分の感覚を相対化できる。
だから、完成した映画が、観客に判りやすくなる。
例えば、方言が不自然で、高校生の生態が充分に反映されていない。


 落ちこぼれの高校生は良いとしても、物語の内容からすれば、東北地方に設定しなくも良かった。
物語のどの部分を強調して、どの部分から手を抜くかは、極めて重要である。
方言の処理に手こずりそうだと感じれば、舞台設定を東京の下町にすることも可能だった。
東京に設定すれば、さまざまな部分で、もっと選択肢が増えただろう。

 脚本の問題として、現在の若い人たちの音楽感覚からすると、この映画の設定では低すぎる。
今時の若者は、ストリートで鍛えられており、鋭い音楽感性をしているので、もっともっと上手いはずである。
それは音楽会で演奏した現役高校生の実力を見れば、一目瞭然である。
ジャズではなくクラシックではあったが、彼らの演奏は決して中途半端なものではなかった。

 挿入されるエピソードにしても、意外性が欲しい。
数学の教師(竹中直人)のジャズマニアが、じつは聞くだけの人で、何も演奏できないのはとても面白い話だ。
しかし、このエピソードが消化されていない。
その原因は教師と学生の関係を、きちんと設定していなかったからだろう。
だから両者の関係が鮮明にならなかった。

 蛇足ながら、「シャル ウィ ダンス」では何とか納まっていたが、竹中直人の演技はオーバーで見るにたえない。
これは役者の問題か。また、演出自体に関しても、平凡である。
雪道でヒロインが走ってきて、ここで転ぶだろうと予測すると、その通りに転んでみせる。
そして、口のまわりに米粒を付けていたのから、彼女たちが弁当を食べたことがバレル。
いずれも通俗的な展開で、先が見て驚きがない。

 この女優さんたちが高校生と言うには、あまりにミズっぽすぎる。
主人公たちが、いかに落ちこぼれの高校生と言っても、背景に現役の高校生が何度も登場するので、女優が演じる高校生が非現実的に見える。
そのうえもっと問題なのは、彼女たちを女優と呼ぶには、あまりにも基本的な演技の訓練が出来ていない。
パンフレットにはオーディションで配役が決まったと書かれているが、きちんとしたオーディションをしないで、配役を決めたのだろうと思う。


 この映画の主人公は女性なのだから、女優さんたちに充分な演技をさせるべきである。
とりわけ大勢が主人公になる映画では、全員の調和が大切だから、大勢の中から充分に絞り込みをかけ、しかも何度も繰り返して演技指導すべきである。
とりわけCMやテレビに出演している若い人は、すでに手垢が付いてしまっており、じっくりと取り組む映画には向かないだろう。

 今回の女優さんたちは、テレビ的なドタバタをやっているに過ぎなかった。
女優さんのキャスティングが、完全に失敗である。
今風のカワイ子ちゃんで、高校生っぽくない。
女優で辛うじて合格点がつくのは、ドラマーを演じた田中直美を演じた豊島由佳梨だけである。
しかし、パンフレットによれば、彼女は21歳で他の女性たちよりも高齢である。
年齢はいっているが、それが目立たなかった。

 ヒロインたちへのメイクが上手すぎるのか、実際の高校生はもっと泥臭いはずである。
泥臭い若い女の子がズージャするところに、ミスマッチのおもしろさが期待できる。
今回の主人公たちには泥臭さが全くなく、物語の必然性を感じさせない。
周りの脇役さんたちは、充分に存在感があったから、ヒロインたちのミスキャストはとても残念である。

 「ウォーターボーイズ」は男の子が主人公だったから、体育会系の演出が可能だったのかも知れない。
水泳という動きの大きなものだったので、ドタバタでも演技の下手さがカバーできた。
しかし、今回は楽器の演奏が中心なので、演技の質が大きく影響してしまった。
女性たちのジャズ演奏は下手だったが、振られた男の子(真島秀和&三上真史)が、デュオで演奏したのは上手かった。

 下手な主人公たちの動きに飽きた頃、音楽が入って辛うじて興味がつながっていく。
演奏しているときだけ、安心してみることが出来た。
最後の音楽会のシーンがなかったら、この映画は一体どんなことになっていただろう。
とまあ、この監督には期待しているがゆえに、勝手なことを書いてしまった。
乞う、ご容赦。 
2004年日本映画
(2004.10.1)

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