タクミシネマ          ウォーター・ボーイズ

 ウォーター・ボーイズ    矢口史靖監督

 男のシンクロナイズド・スイミングという着想を得たときに、この映画の明るい先が見えた。
シンクロは、女性がやるものと決まっている。
しかし、川越高校の男子高校生がやった。
それにヒントを得て、この映画は作られた。
もちろん、コミックである。
企画先行形で、なかなかに楽しく仕上がっている。

 常識を外すのも、コミック映画の常道である。
女なすシンクロを、男がしてみんとは、性別による役割分担が崩れている今日、とても時機を得た企画である。
物語のなかでも、主人公の鈴木(妻夫木聡)は弱気の奴、恋人候補の静子(平山綾)は空手猛者の男勝り、ここでも男女のイメージが逆転している。
それに男性同士の愛情を登場させたのも、今風でありながら、笑える。


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「ぴあ」から
 唯野高校の水泳部には、部員が鈴木1人しかいない。
その鈴木も、根性がなく予選落ちである。
水泳部は、今や廃部の危機に瀕している。
そこへ若い女性の教師佐久間先生(真鍋かをり)が赴任してくる。
すると佐久間先生を目当てに、どっと部員が集まる。
佐久間先生の専門は、シンクロだった。
男子生徒にシンクロを教える、と彼女は張り切る。
しかし、佐久間先生は妊娠がわかって、すぐに産休にはいる。
たちまち部員は5人に減ってしまう。

 残った5人はずっこけな奴ばかり。
しかし、この5人がなんとか頑張って、文化祭にシンクロを見せるまでを、コミカルに映画いている。
夏休みのあいだ、シーワールドにいってイルカの調教師・磯村(竹中直人)に、シンクロの特訓を受ける。
イルカの調教師の特訓だから、怪しげなものなのだが、それが不思議とうまくいってしまう。

 矢口監督は、物語の作り方上手くなった。
秘密の花園」でも、スピーディな物語展開、たくさんのエピソードと、充分に楽しませてくれた。
この手の映画は、最後にはうまくいくのは判っている。
最後のハッピーエンドに向けて、どうやって観客の気持ちをつなげるかである。
単調に持っていってしまっては、観客の気持ちがつなげない。
そこで文化祭のフィナーレまで障害物を儲け、男子生徒たちにそれを乗り越えていかせる。


 廃部になるくらいだから、文化祭の当日にプールが使えない。
海で練習していたシンクロを、水難事故に間違えて、テレビで報道させる。
このテレビ報道で、男のシンクロが人の口にのぼるようになる。
火事騒ぎでプールの水がなくなり、プールが使えなくなる。
こうした障害物は、脚本の段階で考えたのだろう。
それらが小気味よくからまって、物語は最後まで飽きさせない。
しかも、主人公に思いを寄せる男女間の恋と、男性同士の恋もからませて、物語は進む。

 中心になった5人はもちろん、この映画の決め手は水泳力だったろう。
最後には28人の男の子たちが、ガッツあふれる集団演技を見せる。
この練習には、ずいぶんと時間がかかったに違いない。
陸上ならともかく、プールの中でそろった演技を見せるのは、なまなかでなことではない。
彼らはうまくそろって、良く訓練されていた。
女性のシンクロと違って、男性のそれは力強く、それなりに見応えがあった。

 それに反して、演技のほうはお粗末だった。
主人公の鈴木と、ゲイっぽい早乙女をのぞくと、演技らしい演技になっていない。
大人たちはまだしも、若者たちは台詞を喋るのがやっとである。
ヒロイン静子や佐久間先生など、まるで学芸会である。
仕方ないといえば仕方ないが、アメリカの子役たちとつい比べてしまう。
また、演技にかんして言えば、竹中直人は脱線しすぎである。


 鋭い着想、時代を読む確実な目、動きの早い展開、コミック仕立て、といったシャープな感性を、この監督はもっている。
今後も、楽しい映画をたくさん作って欲しい。
この映画には、多くの協賛企業が名を連ねている。
不景気であっても、良い企画には企業がのることがわかる。
おそらく真夏に公開したかったのだろうが、ちょっと秋にずれ込んでしまった。
それでもまったくのシーズン・オフではなくて良かった。

 この映画には、主題らしきものはない。
着想で見せる映画である。
この映画はこれで良いが、今後は主題を転がすようにすべきだろう。
主題をもたない映画づくりでは、表現者としての監督生命が長続きしない。
もう一ついうと、スピーディ展開を心がけるのはとても良いのだが、物語がやや平板になりがちである。
もう少し一つ一つのエピソードを、丁寧に描きこんだほうが良いように思う。

 そういった意味では、佐藤(玉木宏)に心を寄せる早乙女(金子貴俊)のシーンは、意外性があって面白かったし、そのあとの子供の頃の写真へとつなげたのも、とても良かったと思う。
佐藤に大きな黒子をつけさせたのが、ここでよく効いていた。
着想を深化させる。これが今後の希望である。
この映画は、星一つにあと一歩である。

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