タクミシネマ        ステルス

ステルス     ロブ・コーエン監督

 人工頭脳を持った戦闘機の話である。
アイ、 ロボット」「A.I.」など、人工頭脳を主題にした映画は沢山あるが、
戦闘機が人工頭脳を持ったらどうなるか、という点が新しい。
人物の性格設定や、話の展開はすこぶる平凡であるが、
カッコイイ飛行機と息をもつかせない展開で、楽しい2時間を体験できる。

ステルス [DVD]
劇場パンフレットから

 2000人の志願者から、3人のファイターが選ばれた。
隊長格でベン(ジョシュ・ルーカス)、そしてヘンリー(ジェイミー・フォックス)とカーラ(ジェスカ・ビール)である。
隊長が白人で、他の2人が黒人と女性である。
この設定は今日的ではあるが、もはや平凡で表現的ではない。

 3人の主人公たちに、それぞれブリーフィング資料が渡されると、三人三様に理解しようするが、その様子がまた通俗的である。
白人のベンはスマートに、黒人のヘンリーはラップにのせて、女性のカーラは優しく理解する様が描かれる。
黒人がラップにのせて資料を読むなんて、いかにもであり、あまりリアリティがないが、それが主題ではないので許される範囲か?

 超音速戦闘機タロン1〜3の訓練期間が終わり、
空母エイブラハム・リンカーンの艦載機として、実戦に配備される。
すると、3機だったはずのタロンが、もう1機あらわれる。
しかも、エディ(=extreme deep invader)と呼ばれたタロン4は、何と無人の戦闘機だった。
この映画は、無人の戦闘機の実戦配備という、近未来的な舞台設定である。


 偵察機が無人であることは、いまやあり得る話だが、
複雑な行動が要求される戦闘機は、有人飛行が前提である。
しかし、エディは人工頭脳を搭載しており、3人の隊に合流しても遜色ない飛行をした。
エディの人工頭脳は学習するので、
司令官ジョージ(サム・シェパード)や3人の話から、新たな行動基準を体得していく。
建前のとおりに学習が進むうちは良いが、
人間の矛盾した行動をも学んでしまい、それが飛行隊の亀裂となっていく。

 エディを含めたタロン4機は、編隊を組んで任務にあたる。
軍隊では上官の命令は絶対のはずだが、
ベンが司令官に逆らって作戦を成功させ、
しかもそれが褒められたことを学んだエディは、ベンの命令を無視し始める。
その上、落雷を受けたエディは、人工頭脳に特別な回路が発生し、
自分で考えるようになって、とうとう独自の行動を始める。
そこで命令違反を理由に、エディを撃墜するよう指令がでるが、反対にヘンリーが山に激突して死亡してしまう。

 機体が故障したカーラは、空母への帰投の途中で、北朝鮮に墜落してしまう。
その後、ベンとエディの確執が続くが、両機はなんとかアラスカの飛行場に帰還できる。
しかし、自分の戦歴の汚点となることを恐れた司令官ジョージは、カーラの捜索もせず、ベンを暗殺しようとした。
もともとジョージはワシントンの政治家レイと協同して、エディの採用を政府に働きかける野心があった。
エディの任務が失敗すれば、自分だけではなく政治家のレイにも、問題は波及する。   

 前半は無人戦闘機と3人の話だが、後半はジョージの陰謀との抗争になる。
アラスカに着陸したベンは、ジョージの真意を知る否や、エディに乗ってカーラ救出に向かう。
事件の顛末を見てきたエディは、正義に目覚めてベンの命令に従うようになる。
最後にはカーラ救出に成功して、ジョージは自殺するというハッピー・エンディングである。

 話の展開は、実にたわいない。
しかし、いかにも今日的なエピソードが敷設されている。
まず、女性のカーラが、子持ちのバツイチである。
それでありながら、男性とまったく対等なファイターである。
彼女は鍛えられた体で、その見事な肉体を惜しげなくさらす。
太い腕、引き締まったお腹、筋肉あふれる太股などなど、彼女は実にカッコイイ。

 胸の大き過ぎるのがちょっと気になりはするが、飛行服を着た上からも、彼女の格好良さがわかる。
しかし、彼女の性格付けが、弱者への細心の心配りというのは、
女性は優しいという俗物的であり、いささかゲンナリもする。
女性が優しいというのも偏見だろうから、むしろ黒人のヘンリーに、カーラの発言をさせた方が良かったかも知れない。


 ヘンリーは優秀なファイターだが、同時に女性には眼がなく、
手当たり次第に女性を口説いて、ベッドへ直行している。
これもまた通俗的な性格設定である。
極度の緊張を強いられるファイターたちは、女性に手が早いというのは判るとしても、
カーラが混じっている以上、ちょっと無理があった。
同僚のカーラがいる場所で、バービーちゃんを口説いているのは、相当なセクハラである。

 ベンはカーラに恋するのだが、この恋は成就できない。
ベンはカーラを愛しているが、
ヘンリーに「愛しているなら、彼女のキャリアを無にするようなことはするな」と言われ、
愛していると言い出せないで終わる。
というのは、海軍ではファイター同士の恋愛は御法度らしく、その禁を破ると、どちらかが戦闘機から降りなければならないようだ。

 戦闘機乗りとして女性で最も出世し、将来を嘱望されているカーラのキャリアを、
恋愛でフイにするのは恋人のとるべき態度ではないということだろう。
結局、ベンは恋心をうち明けない。
それが今日的な愛情表現に違いない。
これは今日的な恋愛の教科書を見ているようだが、従軍して妊娠する女性が多いという、アメリカ軍の規律の実態はどうなっているのだろうか。

 1997年に「giジェーン」という映画がつくられた。
あの映画は、女性兵士が男性と同様の訓練に耐える話だったが、いまやその次元は通り過ぎている。
女性も男性と同じように戦闘能力があり、
男性でもエリート中のエリートであるファイターに、子持ちのバツイチ女性が選ばれている。
しかも、恋心をうち明けないことが、愛情表現であるという厳しい時代になってきた。

 この映画はベンがカーラを救出するという、古い男性中心物語だが、
それを差し引いても、男女の関係はますます混迷してきたことが判る。
ファイター1人を育ているのには、おそらく億単位以上のお金がかかっているはずで、
高価な投資を受けた以上、簡単に退職してもらっては困るのだ。
それは単に軍隊の問題というだけではなく、今後の教育問題でもある。

 空母の内部やステルス戦闘機など、最先端の世界をみせてくれる。
最近のヤンゴン(映画の中ではラングーンと言われている)が、
ビルが建ち並ぶ近代都市化していることや、
軍人たちの下品な表現ありと、いろいろと楽しみをのせた2時間だった。
単純に娯楽作品として、良くできた映画である。
2時間を退屈することなく、充分に楽しめる。
ソニー・エンターテインメント提供のせいか、パソコンにはバイオが使われていて驚いた。
2005年アメリカ映画
(2005.10.11)

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