タクミシネマ         シン・シティ

シン・シティ    ロバート・ロドリゲス監督

 原作が米国の鬼才フランク・ミラーといわれても、フランク・ミラーが誰だか知らない。
この原作には、おそらく大勢の若者がファンとなっているのだろう。
しかも、彼等は男性だけで、極め付きのオタクに違いない。
ずいぶんと時代遅れな物語設定である。

シン・シティ [DVD]
IMDBから

 フランケンシュタインのような荒くれ男マーブ(ミッキー・ローク)の話、オールド・タウンの用心棒ドワイト(クライブ・オーウェン)の話と、初老の刑事ハーティガン(ブルース・ウィリス)が少女に淫する話が、並行的に進む。
しかし、3つの話題がほとんど脈絡はなく、物語の展開に強引さが目立つ。

 登場人物の性格付けが貧弱で、映画としてみるには子供だましである。
画面は黒のバックに、ところどころ赤が入るというスタイリッシュなものだが、
表現方法にくらべて主題の未熟さが目立つ。
幼稚な男のマッチズムを、自己陶酔しながらヒロイックに描いている。
大変なお金がかかっているにもかかわらず、特別な市場を目当てに制作されたのだろう。

 醜男のマーブが、不思議なことに美女のゴールディ(ジェイミィ・キング)に言い寄られ、
翌朝になるとベッドで死んでいる。
彼はその復讐のために動くが、この状況からしてよくわからない。
しかも、彼女には双子の妹がいて、と話は続くのだが、
彼は死刑になりながら、何と整形手術して現世に舞い戻っている。
死者が生き返るのは、幽霊でも持ち出さなければ不可能であり、この映画の物語のルールを逸脱している。

 オールド・タウンの用心棒の話も判らないが、
アホなブルース・ウィリスが自分の子供のような女性(ジェシカ・アルバ)と恋におちいるとあっては、
もう何をかいわんやである。
ルル オン ザ ブリッジ」でのハーベイ・カイテルの少女趣味や、
トゥルー・クライム」でのクリント・イーストウッドが、若い女性とベッド・シーンを演じる。

 若い女性とつきあう彼等は、老人男性の古い願望を演じているのだろうか。
むしろ谷崎のような屈折した性の自意識こそ、成熟した男性のものであり、
直接的な異性指向はあまりにも動物的である。
男性にとって性は、肉体が絡んでいても最終的には観念の産物であり、
肉体だけに還元してしまうところからは、無限の快感は得られない。

 老年の男性が、若い人間と性関係を結ぶことは、幼児虐待に通じることで、実際に行えば犯罪である。
現実に行えないので、映画の中で願望を描いているのかも知れないが、幼稚きわまりない。
男性が若い女性を保護する、そんな役割に自己陶酔している。
これでもかといった古い男性賛歌で、まったくやりきれない。

 俳優も有名どころが大挙して出演しているが、そのほとんどが男性である。
暴力を肯定的に描き、無造作に血が飛び散る。
手足が切断されて、その断面を生々しく描き、決して上品な作品ではない。
若い俳優は、自分の経歴に気を付けるべきで、イライジャ・ウッドやジョシュ・ハートネットは、こうした映画にでない方が良いのではないか。


 暴力映画にでると、俳優のカラーが固定してしまい、
よりメジャーな作品からオファーがかからなくなってしまう。
イライジャ・ウッドもジョシュ・ハートネットも、それなりの雰囲気を持っているのだから、
自分のキャリアを大切にすべきだろう。
マッチョな暴力オタク以外は、この映画を見ることは避けた方が良さそうである。
2005年アメリカ映画
(2005.10.4)

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