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トゥルー・クライム   クリント・イーストウッド監督

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 クリント・イーストウッドが監督・主演する映画も何本目になるのだろう。
映画作りの壷を押さえて手堅く撮っているが、やはり盛りは過ぎたようだ。
特に、この映画では彼がベッド・シーンを演じ、しわしわになった老体をさらす。
これはどうしようもなく歳を感じ、正視に耐えないと言ったほうがいいように思う。
老人だってセックスしてもちろん良い。
しかし、歳のいった男性と若い女性の組み合わせは、スクリーンではちょっと無理がある。
今や何でもありだが、むしろ高齢者同士の恋愛を描くべきだろう。

 オークランドのはみだし新聞記者エベレット(クリント・イーストウッド)が、死刑執行直前の人間ビーチャムは無罪だと直感し、その解放に走り回る話である。
6年もかけて裁判から死刑の執行へといたり、今日がその執行日。
看守から州知事まで、死刑執行が無事終わるのを祈っている。
そうしたなか、担当のミッシェルが交通事故で死亡したので、そのピンチヒッターとして彼がインタビューに行くことになる。
事件のあらましを聞いただけで、冤罪だと直感した彼は独自の調査を始める。
結果としては、もちろん冤罪がはらされ、ビーチャム(ジェームズ・ウッズ)は釈放される。

 直接の目撃者がいないにもかかわらず、ビーチャムが黒人であることから、彼に死刑の判決がでたという前提である。
黒人と白人の確執は、わが国からは論断しがたい。
黒人が差別されているのは事実であるが、それを個別的なレベルでどうするかというと、解決は難しい問題である。
この映画でも、居住区が黒人と白人に別れていることが描かれていたが、社会全体の正義と個人の生き方は、必ずしも一致するものではない。
黒人差別の克服は、本当に難しい。

 エベレットは酒と女に目がなく、この映画冒頭でもミッシェルをくどき、それが駄目だと同僚の奥さんと不倫というはみ出し者。
女性に目がないのはともかくとして、ちょっと気になったのは、エベレットがアル中だったという設定である。
「依頼人」で弁護士をつとめたスーザン・サランドンも、かつて精神に問題があったという設定だった。
弱者の味方になって正義をあばこうとする者が、なぜか問題児だというのは、そのほうが観客は心情移入できるからだろう。

 謹厳実直・厳正な人間であれば、すでにきちんとした事務所をかまえ、それなりの地位を確立している。
ところが、弱い被疑者は貧乏で、誰も味方に立たない。
彼には行くところがない。
偉い弁護士は貧乏人との接点がないだろうし、そんな事件に関わり合っているなら、もっとお金持ちの事件をやっているだろう。
また、貧乏人が頼むとすれば、担当してあげよう対お願いしますになってしまう。
それでは物語が面白くない。
そこで、弁護するほうも、はみ出し者という設定にして、両者を平等化するのだろう。
現実は、O・J・シンプソン事件を見るまでもなく、金持ちのほうが上質な弁護を受けることが出来るのは言うまでもない。

 とりたてて見るべきところのない映画だが、撮影だけは優れている。
露出がいつも適正なので、映画全体で同じ調子が保たれている。
ライティングがいいのだろうと思うが、発色がきわめて良かった。
雨のシーンのぼんやりさといい、コダック独特の柔らかい暖系の色が、くっきりと鮮やかに画面に映り、撮影者のなみなみならぬ腕を感じた。

1999年のアメリカ映画。


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